【解説】同性の両親から子ども、マウスで実験成功

雄同士での成功は初、障壁となる遺伝子領域を削除して結合、中国

2018.10.16
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遺伝子編集によって、2匹の母親マウスから子どもが誕生した。この雌の子ども自身も、成長した後、生殖に成功している。(PHOTOGRAPH BY LEYUN WANG)
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 新しい生命を生み出すのに、必ずしも男と女を必要としなくなるかもしれない。

 幹細胞と遺伝子編集技術を使って、中国の研究者たちが同性のマウスのペアに子どもを作らせた。これまでにも、雌のマウス同士では成功していたが、新たな研究で、雄のマウスのペアでも子どもが誕生することが初めて示された。

 2匹の雌から生まれたマウスの子は健康的に見え、その後、自分でも子どもを産んだ。しかし、2匹の雄から生まれた子は誕生して間もなく死んだ。全部で12匹が生まれたが、48時間以上生きられたのはわずか2匹だった。

 それでも、科学誌「セル・ステムセル」に10月11日付けで掲載された新たな研究成果は、同性間の遺伝的結合を妨げる障壁について知るための大きなステップとなる。同時にこの研究には、専門家から倫理面での疑問の声も多く上がっている。第一の懸念は、将来の子孫の健康だ。

【参考動画】DNAの編集ツールで、進化の短縮が可能に / 「CRISPR(クリスパー)」と呼ばれる技術がどう機能するのか、アニメーションで視覚的に学ぼう。(解説は英語です)

「遺伝子ターゲティングを行うと、意図せぬ副作用が生じるかもしれません。変えるつもりのなかった他の配列まで変更してしまう可能性があるのです」。英ケンブリッジ大学の発生生物学者で、今回の研究には関わっていないアジム・スラニー氏はこう話す。ゲノム編集は、負の副作用となる可能性とともに、世代から世代へ引き継がれていく。(参考記事:「ゲノム編集でヒト受精卵を修復、米初、将来性は?」

 現段階で、研究チームは結果を人に応用しようとは考えていないが、不可能ではない。「この技術が今後、人に決して使用されないと断言することはできません」。中国科学院の研究者で、論文の著者の一人であるウェイ・リー氏は、Eメールでこうコメントしている。

 米ジョージ・ワシントン大学の法律学教授で、生命倫理と保健政策が専門のソニア・スーター氏は、「この種の研究を行う上でどのような限界を設けるべきか、私たちは社会全体で真剣に考える必要があるでしょう」と話す。

父親なしで生まれる子ども

 今回の研究は、「ゲノム刷り込み(インプリンティング)」と呼ばれる問題を回避しようとする取り組みの1つだ。人の場合、遺伝子は23対の染色体に詰め込まれ、母親から1セット、父親からもう1セットを受け継ぐ。しかし、同じ構成で発生する生物ばかりではない。ある種のトカゲやカエル、魚など、脊椎動物の中には雄からの遺伝子なしに子をもうけられるものがいる。これは単為生殖と呼ばれ、しばしば飼育下で起きる。

 しかし、胎盤を持つ哺乳類の場合はそうはいかない。円盤状の組織である胎盤は、母親と胎児の間で栄養と老廃物の交換を助けている。

「ここに障壁があります。それがゲノム刷り込みです」と、スラニー氏は説明する。精子と卵子が形成される際に、染色体に「タグ」が刷り込まれる。父親由来の染色体と母親由来の染色体では、別のタグが刷り込まれている。そして、ある遺伝子は母親からのDNAで活性化し、別の遺伝子は父親からのDNAで活性化する。

 なぜこのプロセスが有胎盤哺乳類で起こるのかは完全にはわかっていないと、スラニー氏は言う。彼は1984年、この不思議な現象を発見した。一般に言われる説の1つは、これらのタグが胚発生のバランスを取りやすくしているというものだ。しかしスラニー氏は、科学者たちは多くの説明を思いついてきたと強調する。結局のところ、「まだわかっていないのです」と彼は言う。

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