ノーベル平和賞ムラド氏「体験語ることが使命」

戦争で壮絶体験、目の前で兄弟が皆殺しにされ、自身は性奴隷に

2018.10.10
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ノーベル平和賞ナディア・ムラド氏にナショナル ジオグラフィック英語版編集長が話を聞いた。

 2018年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラド氏は、戦争のなかで行われる性暴力の撲滅を目指して、世界的に活動している。年若く、華奢な体で物腰の柔らかな女性だが、国連や世界中の政府に対して、力強く変化を訴える。

 2017年9月に国際討論会「グローバル・ポジティブ・フォーラム」の一環で、ナショナル ジオグラフィック英語版編集長のスーザン・ゴールドバーグとのインタビューに応じたムラド氏は、過激派組織IS(イスラム国)に拘束されていたころの様子、脱出、その後の生活について語った。現在は国連親善大使として活動するが、いつの日かイラクに戻りたいと願う。将来の夢は、メークアップアーティストになることだという。(参考記事:「イラク ISの爪痕と生きる(2017年4月号特集)」

 インタビュー前、音響スタッフは慎重にムラド氏の服にマイクを取り付けた。口では大丈夫だというが、体に触れられると身震いする。視線には、今も言葉にならないほどの恐怖が傷跡となって残されている。それでもインタビューでは、「正義は達成可能です」と語った。

そして、恐怖が訪れた

 ムラド氏は、1993年にイラク北部の貧しいヤジディ教徒の家庭に生まれた。ヤジディは、古代メソポタミア信仰の流れをくむ宗教的少数派だ。民族的にはクルド人である彼らは、長い間弾圧されてきた。独裁者サダム・フセインの政権下で、イラクでは18万人が大量虐殺されたが、多くのヤジディ教徒も犠牲となった。(参考記事:「迫害されるイラクの少数派ヤジディ(2016年3月号特集)」

 2014年8月、ISの戦闘員がヤジディ教徒最大の町シンジャルへ侵攻した。町を守っていたクルド人自治政府の治安部隊ペシュメルガが撤退すると、ISはヤジディ教徒たちに対し、命が惜しければイスラム教へ改宗するように迫った。あるイスラム教指導者が12日間かけて改宗するようヤジディたちを説得したが、ほとんどの者は応じなかった。

 そして、恐怖が訪れた。村人たちは集められ、女性、少女、子どもは男たちから引き離された。ムラド氏の目の前で、兄弟6人が銃で撃たれたり、首をはねられて殺された。この時、2000人のヤジディ男性が虐殺された。(参考記事:「最悪の瞬間はレイプの後に訪れた、弾圧される民族ロヒンギャ」

 ムラド氏はモスルへ連れていかれて、性奴隷にされた。何カ月もの間、毎日のように殴られ、レイプされた。その後逃げ出して、近くの民家で助けを求めた。そこから、スンニ派のイラク人家族の助けを借りてクルド人自治区までたどり着いた。(参考記事:「拉致とレイプ、過激派組織の拘束を逃れ、声を上げた少女たち 写真12点」

 難民キャンプに滞在していたムラド氏は、ヤジディ難民の支援団体と出会い、ドイツに移り住んだ。彼女の体験談は、国際法と人権問題を扱う弁護士アマル・クルーニー氏の耳に入った。以来、クルーニー氏はムラド氏の弁護人を務めている。

 2年後、ムラド氏はゴールドバーグのインタビューに応じた。穏やかながらも力強く、真剣に、時には軽い口調で、母国語のクルマンジー語を英語に通訳してもらうのを忍耐強く待ちながら、ヤジディの人々の正義を訴える闘いについて語った。(参考記事:「異郷のヤズディ(2017年10月号特集)」

文=Romy Roynard/訳=ルーバー荒井ハンナ

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