ハトが驚いて、自分に向かって飛んできたとしよう。あなたの目と脳は無意識にハトを素早くとらえ、ぶつからないよう避けるだろう。
このように、人間の目は優秀だ。ただ、動物の中で特別に優れているわけではない。例えば、ほとんどの鳥の仲間は視覚情報を人間よりはるかに速く処理できる。(参考記事:「本誌2016年2月号 不思議な目の進化」)
「比較的速い速度で飛んでいる鳥は、木の枝にぶつかるのを一瞬で避けなければなりません」。こう話すのは、米パデュー大学の動物生態学者エステバン・フェルナンデス=ジュリシック氏だ。
「さらに鳥には、遅い動きまでしっかりと見えている可能性もあるのです」と鳥の高速画像処理能力について同氏は話す。
鳥の目は極めて優秀で、その優れた視力はしばしば話題になる。有名なのはタカの目の能力だ。タカは、ウサギほどの獲物なら5キロ近く離れた所からでも見つけられる。さらに、スズメには紫外線が見えるという。人間には想像するのも難しい世界が見られるわけだ。(参考記事:「紫外線に浮かぶ花々、見たことのない妖艶な姿 写真17点」)
フェルナンデス=ジュリシック氏と米コーネル大学との共同研究で、生態学者ラスティー・リゴン氏は、人間には見えない紫外線を利用した鳥のコミュニケーション方法を発見した。例えば、フキナガシフウチョウには、長い飾り羽が2本あるが、「紫外線を当てると光る性質があります」と同氏は言う。
世界の見え方が人間と大きく違う動物はほかにもいる。
水中と陸上の両方で生活する両生類の中には、上下のまぶたに加えて第3のまぶたがあるものもいる。このまぶたは「瞬膜」と呼ばれ、水中では目を保護し、陸上では目の乾燥を防ぎ清潔に保つのに使われている。
「カエルは、暗闇の中でも色を見分けられる目を持つ唯一の脊椎動物と考えられています」と生物学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー、ジョナサン・コルビー氏は話す。光が弱くなるほど、動物は色がわからなくなっていくが、カエルは月明かりすらない暗い夜でも色を識別できるのだ。
また動物の視覚器官は、顔にある2つの目だけとは限らない。
今年、ヒトデの5本の腕の先端に目があることがわかった。学術誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載された論文によると、その目では、人間にとっては200ピクセルほどの画像のように見える、粗い像しか見えていないと考えられるが、大きな物を認識するには十分だ。
目は、それぞれの種が必要とするように進化してきた、と生物学者ダン=エリック・ニルソン氏は2016年のナショナル ジオグラフィックの取材で語っている。(参考記事:「単眼も複眼ももつ“目の工場”ケヤリムシの謎」)
「目は貧弱なものから完璧なものへと進化したわけではありません。まず少ない機能を完璧にこなすことからスタートし、その後、複雑に機能するように進化してきたと考えるべきでしょう」と、同氏は話している。
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