謎の古代生物の正体は「動物」と判明、地球最古級

5.7億年前の生物ディッキンソニアの化石から、なんとコレステロールが

2018.09.21
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存在しないものを調べる

 エディアカラ生物群の研究を難しくしているのは保存の問題だ。彼らのグニャグニャした体はとっくの昔に腐敗している。化石記録に残りやすい骨や殻などは持っていなかったため、エディアカラ生物群の実体は完全に失われ、痕跡だけが残っていることが多い。また、これらの生物は進化のごく初期のメンバーで、現代の生物とは大きく異なるため、進化系統樹のどこに位置するかを探るのは非常に難しい。1980年代には、エディアカラ生物群に独自の絶滅した「界」を与えるべきだと提案する研究者さえいた。

 過去の研究は、ディッキンソニアの痕跡の物理的な分析を中心に行われ、その成長と発達、動き回っていたことの証拠、サイズ、複雑さが調べられてきた。今回の研究では、科学者たちは新たな手がかりとして、ステロールというバイオマーカー分子に目をつけた。多くの生物が体内でステロールを作るが、生物の種類によって少しずつ異なっている。

 動物が作るステロールはコレステロールと呼ばれる。「マックチキンナゲットに含まれている、あれです」とブロックス氏は冗談めかして言う。ステロールはほとんどすべての動物の細胞膜で重要な役割を果たしていて、細胞への物質の出入りの調節を手伝っている。

 研究チームはこれまでもバイオマーカー分析を用いて、堆積物中の藻類を探し出してきた。「分析により、その場所の生態系の平均組成が得られます」と、今回の論文の筆頭著者であるオーストラリア国立大学の博士課程学生イリヤ・ボブロフスキー氏は説明する。

 エディアカラ生物群の化石の大半が印象化石であるため、バイオマーカーを検証しようとする研究者はこれまでいなかった。しかし、一部の印象化石には有機物の薄い層がまだ残っている。ボブロフスキー氏は、この有機物層の中の炭素を含む物質が、奇怪な生物の秘密を隠し持っているかもしれないと考えた。(参考記事:「ネアンデルタール人のゲノム解読、我々の病に影響」

 ボブロフスキー氏の指導教官であるブロック氏は、当初は懐疑的だった。「最初はクレイジーなアイデアだと思いました」。しかし、野心的な教え子のやる気をくじきたくなかった彼は、研究を進めることを許可した。

特集ギャラリー:生命が複雑になったとき(2018年4月号)
5億800万年前。カナダ西部のバージェス頁岩(けつがん)の中から発見されたカナディア・スピノサ(Canadia spinosa)。カナダのロイヤル・オンタリオ博物館で撮影。

なにが明らかになったのか?

 ボブロフスキー氏は、エディアカラ生物群の痕跡に含まれる化石化したステロールを調べる方法を開発し、その結果を、周辺の岩石から抽出したバイオマーカーと比較した。

 この手法をテストするため、ボブロフスキー氏はまず、エディアカラ生物群の1つ「ベルタネリフォルミス(Bertanelliformis)」に目を向けた。この生物も以前は、藻類、菌類、ひいてはクラゲの仲間ではないかと言われていたが、バイオマーカーは、これがシアノバクテリアの球形のコロニーであることを示していた。彼らは今年、生態学と進化の学術誌『Nature Ecology and Evolution』に分析結果を発表した。

 次いでディッキンソニアに目を転じ、ロシア北西部の白海地方でサンプルを収集した。

 ブロック氏は、「化石と周囲の海底の分子組成は、はっきりと違っていました」と言う。古代生物の痕跡に含まれるコレステロールの豊富さ(最大93%)は、これが動物であることを示唆していた。これに対して、周囲の海底にはコレステロールはほとんど含まれておらず、代わりにエルゴステロイドという物質を含んでいたことから、緑藻の存在が示唆された 。

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