「スコティッシュ・ワイルドキャット・アクション(Scottish Wildcat Action)」では、動物園、大学、保護団体が連携して、ハイランド地方の5つの指定地域でヤマネコの保護計画を実施している。

 スコットランドの自然遺産を保護する公共団体「スコットランド・ナチュラル・ヘリテージ(Scotland Natural Heritage)」のプロジェクトマネジャーである生物学者のルー・キャンベル氏によると、これらの指定地域では、チームのメンバーがイエネコの飼い主に去勢の重要性を教育するプログラムを展開するほか、飼い主のいないノネコと雑種のネコをフィールドワーカーが捕獲し、ワクチンを接種し、去勢し、野生に帰しているという。

 スコティッシュ・ワイルドキャット・アクションは2016年から今日までの間に、5つの指定地域で200匹のネコを去勢してきたが、おそらくその半数が雑種である。キャンベル氏は、雑種のネコの捕獲はイエネコの10倍難しいと言う。雑種のネコはイエネコよりも警戒心が強く、野生的なのだ。

「雑種は特に問題です。彼らはヤマネコと一緒に暮らし、縄張りや配偶者をめぐって争うからです」とキャンベル氏。「しかし、ヤマネコとイエネコをつなぐ『架け橋』を断ち切ることで、さらなる交雑を防げるため、優先的に去勢を実施しなければなりません」

スコットランドヤマネコはイエネコに似ているが、大きさは2倍ほどで、独特の縞模様をもち、性格は猛々しい。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)
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人工繁殖からの野生復帰には異論も

 一部の動物園では飼育繁殖プログラムも開始しており、現在、約80匹のスコットランドヤマネコが飼育されている。スコットランド国立博物館の脊椎動物部門の首席学芸員であるアンドリュー・キッチナー氏は、飼育されているヤマネコの遺伝子プロファイルは野生のヤマネコよりもよく理解されており、研究者らは、将来、野生復帰に十分適したヤマネコの繁殖につとめていると語る。

 しかし、ヤマネコを野生に帰せるようになる日がいつ訪れるかは不明だ。飼育されている動物を野生に帰すことには多くの問題もある。例えば、動物を自然界から引き離してしまうと、本能的な行動や、車や人間などの脅威に対処する能力が大きく損なわれてしまう。

 国際自然保護連合(IUCN)が引用した研究によると、1980年代に、野生で捕獲され、飼育された129匹のヨーロッパヤマネコをドイツの3カ所の森林に再導入する試みがあったが、ほとんどが最初の数週間で車に轢かれて死亡し、生き延びたものは20~30%であったという。

 もちろん、彼らは交雑の脅威にも直面する。

 ヤマネコの保護の方針をめぐっては、保護団体の間で意見が食い違っている。ワイルドキャット・ヘイブンは、人工繁殖した個体を野生に帰す場合の死亡率の高さはとうてい容認できないとして、不可能で不健全なやり方だと批判している。

 スコットランドヤマネコの映画を製作した環境保護活動家で映画監督のスティーヴ・パイパー氏も、スコティッシュ・ワイルドキャット・アクションは、政府から資金の大半を提供されているため、緊張感が足りず、資金の使い方の効率が悪いと批判する。パイパー氏が設立したワイルドキャット・ヘイブンは、過去数年間に政府より多くのヤマネコを去勢してきたが、その予算ははるかに少ない。

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