かつて英国にはさまざまな野生動物が生息しており、オオヤマネコ、オオカミ、クマ、ヤマネコなど大型の捕食者もいた。このうち、今日も生き残っているのはヤマネコだけで、彼らも危機的な状況にある。
素人目には、スコットランドヤマネコはペットのイエネコのように見えるだろう。だが、ヤマネコほど人間を嫌う哺乳類は少ない。そして皮肉なことに、ヤマネコにとっての最大の脅威はイエネコだ。(参考記事:「ネコの影響は爬虫類でも甚大、全体を減らす可能性」)
ヤマネコは人間を避けて暮らしているものの、多くのヤマネコがイエネコと交雑し、雑種を作り出している。純粋なスコットランドヤマネコは、イエネコの2倍ほどの大きさだ。毛は密生し、尾は短めで、独特の縞模様をもつ。(参考記事:「絶滅危惧種ツシマヤマネコに会ってみた」)
スコットランドヤマネコは、スコットランドのハイランド地方に生息するヨーロッパヤマネコ(Felis silvestris Schreber)の仲間で、現在は絶滅の危機に瀕している。かつては英国全土で見られたが、狩猟や駆除の対象となり、ハイランド地方の人里離れた場所にだけ生き残っている。正確な生息数は不明だ。野生個体は数十~数百匹と言われ、おそらく少ない数字の方が現実的だと見られている。35匹前後と推定する人もいる。(参考記事:「「幻のヤマネコ」オセロットの巣と赤ちゃんを発見」)
交雑があるせいで、正確な個体数を数えるのには手間がかかる。たいていの場合、イエネコの混ざり具合を特定するために、毛や遺伝子を詳しく調べなければならない。
イエネコに去勢手術とワクチン接種
「ハイランドタイガー」と呼ばれることもあるスコットランドヤマネコを救うため、複数の組織が、ヤマネコが生息する地域のイエネコの去勢手術とワクチン接種を行う大規模なプログラムに着手している。(参考記事:「ハイランド牛、スコットランド」)
「ワイルドキャット・ヘイブン(Wildcat Haven)」という意欲的な団体は、主に西ハイランド地方のアードナマーカン半島で独自の去勢プログラムを開始した。この団体の最高科学顧問のポール・オドノヒュー氏によると、彼らはこの3~4年間で、アードナマーカン半島とスコットランド北部の別の地域で、300匹近いイエネコとノネコを去勢したという。この取り組みにより、ヤマネコが交雑するおそれがほとんどない土地が3200平方キロ(編注・東京都の面積の約1.5倍)できたという。彼らは、重要な個体群が特定されているクラシンダロック森林の伐採を禁止する働きかけも行っている。
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