専門家に異論はないのか?

 米カリフォルニア大学バークレー校の名誉教授で、洞窟画や岩絵を広く研究してきた考古学者のマーガレット・コンキー氏は、「年代は正確に特定されています」と言う。「彼らは長年、この洞窟の調査に取り組んでいます。綿密な研究です」

 しかし、コンキー氏は、現代的な行動が南アフリカで始まったという解釈には反対している。「彼らの考え方はアフリカ中心主義です」と彼女は言う。「アフリカ中心主義」とは、現代的な行動の起源はヨーロッパにあるとする考え方と対立する考え方だ。(参考記事:「1千万年前の歯化石、「人類の起源」は言い過ぎ」

「どちらか一方を中心とするのも良くないことです。人類の進化も行動も複雑であるからです」と彼女は言う。「起源は1つとは限りません」

模様は「絵画」と呼べる?

「模様がアートなのかどうかもわかりません」とヘンシルウッド氏は言う。「シンボルであることは明らかです」。石の薄片に描かれた直線が交差する「#」のような模様は、ブロンボス洞窟で出土した骨やオーカーの破片にも見られるため、このデザインは意図的に描かれたものと考えている。「アートの定義は難しいですよね。人によっては、ピカソの抽象画でさえ、アートと見ない人もいます。アートかどうかは、誰が決めるのでしょう?」

 コンキー氏は、ヘンシルウッド氏のチームは人々に特定の解釈を誘導するような言葉を選んで使っていると指摘する。例えば、模様を描くのに用いられたオーカーの説明だ。「彼らはオーカーをわざわざクレヨンと呼んでいます」とコンキー氏。「そう説明されたら、古代人たちは絵を描いていたと思ってしまいますよね。中立的に、オーカーの破片と呼ぶべきです」(参考記事:「旧石器時代の洞窟はコンサートホール?」

 つまりコンキー氏は、ヘンシルウッド氏のチームは、「絵画」と「クレヨン」という言葉を修辞的に使い、初期の人類が現代的な行動をしていたと人々に思わせようとしているというのだ。彼女はハッシュマーク(#)も単なる落書きで、初期の人類は、そんなふうにして周囲の世界と触れ合っていたのだろうと見ている。

 ブロンボス洞窟の人類は、意図的にオーカーを拾い上げたのだろうか? ものや抽象的な概念を描こうとしたのだろうか? タイムマシンでもない限り正解はわからない。コンキー氏は「今回の発見は非常に興味深いものです。南アフリカの初期のホモ・サピエンスは、複雑なものを残していることがまた1つはっきりしました」と話す。

パノラマ撮影したブロンボス洞窟内の写真。科学者たちはここで初期のホモ・サピエンスのさまざまな遺物を発見した。(PHOTOGRAPH BY MAGNUS HAALAND)
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