「鏡の中の自分」がわかる魚を初確認、大阪市大

犬や猫もできないミラーテストに合格、自己認識できる可能性示す

2018.09.14
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 幸田氏らが長い時間をかけて研究に取り組んだことも、ブシャリ氏は賞賛している。ブシャリ氏もホンソメワケベラが鏡の像に向けて口を大きく開けて威嚇する姿を見たことがあるが、その段階で観察をやめてしまい、さらなる結果にはつながらなかった。

 しかし、ミラーテストの考案者で米ニューヨーク州立大学オールバニー校の進化心理学者ゴードン・ギャラップ氏は慎重な意見を述べている。ホンソメワケベラは、掃除屋という性質上、ほかの魚についている外部寄生虫が気になって仕方がないので、このような行動になったのではないかという。

「鏡でしか見られない別の魚についた寄生虫のようなマークを、少しばかり長く見ていたとしても、不思議なことではありません」

写真は、ホンソメワケベラとホクトベラ(右)。ホンソメワケベラは、体は小さいが知能が高く、他の魚と共生関係を築くことで知られている。しかし、自己認識力が備わっている可能性については、これまで誰も本気で主張する者はいなかった。(PHOTOGRAPH BY PAUL SUTHERLAND, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
[画像のクリックで拡大表示]

 ギャラップ氏はまた、鏡の前で見せたおかしな姿勢についても、別の魚についていると思い込んでいるマークをよく見るために、相手の体を動かそうと働きかけている可能性があるという。

「マークのついた喉をこするという行動は、ほかの魚に対して、喉に寄生虫がついているよと知らせてあげているのでしょう」

 幸田氏はこの説明に対して、喉をこすりつけた後に再び鏡を確認する行動は説明できていないとする。

「鏡の中の魚は自分であると認知しているという仮説だけが、私たちの実験結果のすべてを説明してくれます」

ミラーテスト自体に議論も

 もしホンソメワケベラが本当にミラーテストに合格したのだとすれば、彼らには自己認識能力があると考えてよいのだろうか。そうかもしれないが、一方でテスト自体が私たちの考えていることを証明しているわけではないという可能性もある。

 米ペンシルベニア大学の認知神経科学者のマイケル・ブラット氏は、今回の研究には関わっていないが、興味深く優れた研究であると評価する。

 プラット氏は、研究結果は私たちが思っているよりも多くの動物に「自己」の感覚があることを示しているのかもしれないし、逆にミラーテストと「自己」認知はほとんど関係がなく、単に自分の体の境界線を定義づけるために鏡を使うことを動物が学んだだけかもしれないとも指摘する。

「どちらの結論が正しいかを知るのは不可能です。人間以外の動物は自分で報告できないし、体験したことを私たちに説明してくれないですから」

 もしこのテストが本当に抽象的な自己認識を明らかにしているとしたら、ホンソメワケベラもさることながら、ひょっとするとこれまで考えてもみなかった多くの動物たちが、私たち人間と驚くほどよく似た心を持っているということかもしれない。

【参考ギャラリー】息をのむ水中写真 15点(写真クリックでギャラリーページへ)
キューバのジャルダン・デ・ラ・レイナ(女王の庭)諸島で、カメラの近くを泳ぐペレスメジロザメ。(PHOTOGRAPH BY SHANE GROSS, NATIONAL GEOGRAPHIC YOUR SHOT)

文=Jake Buehler/訳=ルーバー荒井ハンナ

おすすめ関連書籍

動物の心

知性 感情 言葉 社会

動物たちの心の世界を探求した最近の研究成果を、わかりやすく解説。

定価:本体1,400円+税

  • このエントリーをはてなブックマークに追加