収蔵品の約9割を消失、火災のブラジル国立博物館

南米最古の人類化石や恐竜、隕石など「替えのきかない品」2千万点

2018.09.05
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取り返しのつかない損失

 出火の原因はまだわかっていないが、火が出たのは博物館が閉館したあとだった。今のところ、けが人は報告されていない。消防士は夜通し消火にあたったが、この火災はたくさんの科学者たちの仕事に大きな影響を与えることになる。

「失われた収蔵品の重要性は、どれほど大げさに言っても足りません」と、博物館で収蔵品を調査したこともあるブラジル人魚類学者ルイス・ロチャ氏は話す。「とても貴重な品々です。替えることができないものが多く、金銭的な価値をつけることはできません」

ギャラリー:ブラジル国立博物館炎上、焼け跡と抗議デモ 写真13点(写真クリックでギャラリーページへ)
火災翌日の博物館。ドローンで撮影した。(Photography by Mauro Pimentel, AFP/Getty)

 ブラジル人昆虫学者マーカス・グイドッティ氏は、「かなり途方に暮れています」と嘆く。同氏は世界に2000種以上が生息するグンバイムシという昆虫を研究している。ブラジル国立博物館には、世界最大級のグンバイムシのコレクションがあったが、今回の火災で、その他500万点の節足動物の標本とともに焼失した可能性が高い。「これらの標本は、生物を理解するうえで欠かせない、替えのきかないものです」

 ブラジル先住民についての知識も被害を受けた。彼らの道具や、ブラジル全土から集めた先住民の言語を録音したコレクションは世界的に有名だった。焼失した記録には、すでに話されていない言語も含まれている。

 オランダのライデン大学で南米先住民の道具について研究しているブラジル人人類学者マリアナ・フランソゾ氏は、「怖しさのあまり、言葉を失っています」と言う。「もう私たちの祖先が何をしていたのかを理解できなくなってしまったのです。とてもつらい気分です」

予算削減で補修が行えず

 世界的に見れば、近年、自然史博物館が焼失したのはこれが初めてではない。2016年4月には、ニューデリーのインド国立自然史博物館が焼失している。ブラジル国内でも2010年に、サンパウロの主要な生物医学研究所であるブタンタン研究所で火災が起き、世界有数の規模を誇る毒を持つ動物の標本が焼失した。これにより、100年以上かけて収集された50万点以上のヘビ、クモ、サソリのコレクションが失われた。(参考記事:「貴重文書焼失、エジプト学士院火災」

 前述の古生物学者ロドリゲス氏は、「これはブラジルだけの問題ではありません」と言う。「世界中のコレクションが危険にさらされています。きちんと管理しなければ、このようなことは何度でも繰り返し起こります」

ギャラリー:ブラジル国立博物館炎上、焼け跡と抗議デモ 写真13点(写真クリックでギャラリーページへ)
炎に直撃されたベンデゴ隕石。ブラジルで見つかった最大の隕石だ。(Photography by Leo Correa, AP)

 ブラジルのミシェル・テメル大統領は、Twitterへの投稿で国立博物館の損害は「ブラジルにとって計り知れない」とし、「すべてのブラジル人にとって悲しい1日」だと嘆いた。しかし、この悲劇は防ぐことができたという批判が高まっており、ブラジル政府はそれに直面している。

 国立博物館は、2014年以来12万8000ドルの予算の全額を受け取ることはできておらず、2018年に受け取ったのはわずか1万3000ドルだった。2015年には、清掃員や警備員の給与を払えなくなり、一時的に休館に追いこまれたこともある。ザトウクジラとマシャカリサウルスの骨が展示されている人気のホールは、シロアリによる被害を受けていたため、博物館の学芸員たちがクラウドファンディングを行って修復工事の費用を工面した。

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