大気汚染で認知能力が低下、年齢が高いほど顕著

男性であること、教育水準が低いことも影響強める、研究

2018.09.05
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汚染の影響は全身に?

「鼻から脳まで嗅神経を伝って移動するかもしれませんし、血液に入り込むかもしれません」。炎症によって損傷が引き起こされている可能性もサメット氏は疑っている。

 肺と脳のほかにも、心臓の不調や糖尿病と大気汚染の関連を指摘する研究もある。

「影響を受けると見られる器官の多さは驚くほどです」とサメット氏。(参考記事:「山火事の煙害が広域化、死者は年間34万」

 それは人の体の構造が密接に関係しているせいだと、米ノースカロライナ大学の環境毒物学者であるダン・コスタ氏は説明する。大気汚染は肺だけでなく、心臓、脳、そして生殖器系にも多少の影響を及ぼすことが、これまでの研究で示されている。

「毒性のある物質が体の中に入ってしまったら、その影響はあらゆるところに及ぶ可能性があります」とコスタ氏は言う。汚染物質は血液によって脳に運ばれると氏は考えている。

 汚染物質を含んだ血液は肺の次に心臓を経て、体の各部へ送り出され、免疫系を刺激して炎症を起こさせる。コスタ氏によれば、あまりにも多くの有毒な粒子によって炎症がひんぱんに起きれば、脳の老化が早まる可能性がある。

 脳は研究するのが難しい器官だとコスタ氏は言う。また、この比較的新しい研究領域をさらに難しくしているのが、脳内の物質に化学的な変化を起こしうる要素の多さだ。(参考記事:「先端技術で見えた脳の秘密」

「脳の中で起きていることは、とても複雑に連携しています。ほかの器官にはない高次の機能があります」

世界の大気汚染の現状は

 黒い煤煙がもくもくと吐き出されていた70年前に生きていた人々は、今日に比べて短命だった。この事実によって、大気汚染が体全体に行き渡るということを、少なくとも部分的には説明できるかもしれないとコスタ氏は言う。(参考記事:「すすけた鳥の標本で昔の大気汚染を測定、135年分」

「以前はわからなかった微妙な問題が、現在明らかになりつつあります」

 最近まで米環境保護庁(EPA)で働いていたコスタ氏によれば、山火事から化石燃料の燃焼まで、さまざまなところから発生する粒子状物質が健康に最も有害な大気汚染物質であると広く考えられている。しかし、特定の粒子の影響を正確に指摘することは難しい。空気の質が悪い地域では、汚染物質の種類は1つだけではないことが多いからだ。(参考記事:「世界30億人が「たき火」調理、煙害なくすには」

 過去20年間のEPAのデータは、北京師範大学の研究で特定された3種類の汚染物質が、米国ではすべて減少していることを示している。しかし、大規模な都市型工業地帯のある発展途上地域では横ばいだ。(参考記事:「インドネシアの野焼きの環境被害を算出」

 世界保健機関(WHO)は2018年、世界中で10人に9人が汚染された空気を吸っていると報告した。米国の場合、米国肺協会が発表したその割合は、10人中4人である。(参考記事:「環境汚染で170万人の子どもが死亡、WHOが報告」

「取り組み易い対策は、ほぼやり尽くされました」とサメット氏は言う。石炭火力発電所とディーゼル発電機が最も危険な大気汚染源に含まれることに変わりはない。(参考記事:「脱石炭を図る中国政府、変われない地方の製鉄所」

 そのほかのタイプの大気汚染を解決するには、公共交通機関や都市計画のレベルで改善を図るなど、意識の変革が必要かもしれないと氏は考えている。

【参考ギャラリー】最も汚染された街、デリーの写真28点(写真クリックでギャラリーページへ)
何キロも続くブホールスワのごみ捨て場で、プラスチックを探す少女。(PHOTOGRAPH BY MATTHIEU PALEY, NATIONAL GEOGRAPHIC)

文=Sarah Gibbens/訳=山内百合子

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