卵に語りかけるクマノミ、心打つ生き物たちの営み

身近な海で撮影する水中写真家が見つめた、命をつなぐ生き物たち

2018.08.30
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夏の終わり、静岡県伊豆半島の大瀬崎で卵を世話するクマノミ。一つひとつの卵に語りかけるような親の姿に感動を覚えた。写真=粕谷 徹

 水中で繰り広げられるシーンのなかでも一番心を打たれるのは、命を後世につなぐ場面。繁殖行動こそが生物の一生のハイライトだと考え、たとえば、5月頃には北海道の函館でシワイカナゴ、6〜9月頃には静岡県の大瀬崎でマダコやクマノミ、7〜8月頃には石川県の能登島でホソエガサといった具合に、水温などの条件によって時期や撮影地を変えながら、繁殖行動に合わせて撮影に出かけている。

 親が卵を守る方法は魚によってさまざまだ。クロホシイシモチのように孵化するまで卵を口の中で育てる魚もいれば、ひれの間に卵を抱えるニシキフウライウオなどの魚、なかにはウミタナゴのように「卵胎生」といって、卵を体の中で孵化させて稚魚を出産する魚もいる。

 とりわけ好きな場面の一つに、マダコの孵化がある。大海原に飛び出していく元気な稚ダコと対照的に、親ダコはだんだん疲弊していき、最後の卵がかえった後も巣穴に残り、大仕事をやりきった様子で命をまっとうする。その姿が感動的で毎年観察を続けている。

 海の生き物たちの懸命な営みを観察していると、人が子育てをする姿と重なって、「がんばれ!」と応援してしまう。姿や形がまったく違う生き物に親近感をもち、共感する瞬間だ。そんな場面を撮るために、時間をかけて彼らの緊張を解き、普段と同じ行動をとるまで待つ。じっくりと観察することで、個体の癖や特徴がわかり、今まで気づかなかった行動に驚かされたりもする。

 卵の殻を破って次々に飛び出す稚魚。周りでそれを待ち受ける捕食者。孵化の瞬間には、生き物の生命力としたたかさ、自然の厳しさを同時に感じる。海の生き物たちの活気あふれる姿や美しい水中風景を通じて、すぐそばにある自然の豊かさをこれからも伝えていきたい。

※ナショナル ジオグラフィック9月号「身近な海でつながる生命」では、日経ナショジオ写真賞グランプリを受賞した粕谷徹氏の作品を紹介します。

写真・文=粕谷徹

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