「ありえない」――古遺伝学者のビビアン・スロン氏は、当初、骨のDNAの分析結果を信じられなかった。その骨は、ネアンデルタール人のDNAとデニソワ人のDNAを、ほぼ等量もっていたのだ。彼女は何かの間違いだろうと考えた。スロン氏は、ドイツにあるマックス・プランク進化人類学研究所の博士研究員だ。
分析結果によると、約9万年前の骨片は、10代の少女のもので、母はネアンデルタール人、父はデニソワ人だということだった。科学者たちは、数種のヒト族がいた時代、交雑があったと考えている。古代や現代のヒトゲノムの中に、彼らの遺伝子を痕跡が見つかっているからだ。ただ、交雑によって生まれた子の存在が実際に確認されたのは今回が初めてだ。
スロン氏は、骨片の別の部位からもサンプルを採集し、改めて分析したが、結果は変わらない。それでも疑念は払拭できない。最終的に6つのサンプルを分析してみたが、分析結果は変わらなかった。
この発見は、2018年8月22日に科学誌「ネイチャー」に発表された。2種のヒト族の交雑によって生まれた子どもの初の決定的な証拠であり、古代のヒト族同士の関係の理解を進めるヒントだ。
米ハーバード大学の遺伝学者デイビッド・ライク氏は、「ものすごい発見です」と言う。「交雑の第一世代の子など見つからないと思っていましたから」。同士は今回の研究には関与していない 。
母がネアンデルタール人、父がデニソワ人である彼女は、どんな少女だったのだろう? 彼女の化石は、人類の歩みの研究に、今後どんな影響を与えるのだろうか?
デニソワ人はどんなヒト?
人類の系譜にデニソワ人が加わったのは2010年、つい最近のことだ。そのため、デニソワ人についてわかっていることは、まだ少ない。
2010年、マックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ氏が率いる国際チームが、シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟で発掘されたヒト族の小指の骨と親知らずの歯から、未知のヒト族のDNAが発見されたと発表した。新たに発見されたヒト族は、洞窟の名称にちなんでデニソワ人と名付けられた。(参考記事:「人類3種が数万年も共存、デニソワ人研究で判明」)
おすすめ関連書籍
古代文明から超常現象、宇宙、生命まで、ミステリーの全カタログ。好奇心をかき立てる『世界の謎』99個を集め、科学の眼で迫ります。
定価:1,540円(税込)