「サメに磁石」が、漁業におけるサメ保護の決め手になるかもしれない。
新たな研究によると、磁石にはサメやエイを遠ざける効果があり、漁業用の餌を入れたカゴにこうした魚が間違ってかかってしまうのを防げるようになるという。
「あまりにうまく行ったので驚きました」と言うのは、オーストラリア、ニューカッスル大学の海洋生態学者で、学術誌「Fisheries Reseach」に論文を発表したビンセント・ラウール氏だ。
サメの頭部の前方には、獲物の筋肉の収縮によって生じる微弱な電流を感知する器官がある。(参考記事:「ホホジロザメ、ロボットカメラを襲う」)
「サメは基本的に、餌が見えなくても、匂いがしなくても、そのありかを感知できます」とラウール氏は言う。(参考記事:「サメが広大な海を回遊できる理由が明らかに」)
強力で不自然な磁場、つまり磁石は、サメのこの感覚を混乱させる。ラウール氏はこれを「ドアをあけた途端に強烈な悪臭に見舞われるようなもの」だと言う。「私たちが知るかぎり、動物にとっては非常に不快な刺激です」
サメが近づかないようにできるかどうかを検証するため、研究チームは、餌を詰めた漁業用のカゴの入り口付近に、長さ約8cmの棒磁石を取り付けた。冷蔵庫に貼る磁石とたいして変わらない長さだが、厚みがあり、ずっと強力な磁石だ。
シドニーの北にあるホークスベリー川河口の商業漁船は、こうしたカゴを使ってゴウシュウマダイやオーストラリアキチヌを獲っている。だが、カゴに入っている餌は、シロボシホソメテンジクザメやポートジャクソンネコザメ、アラフラオオセ(これもサメ)のほか、ときにシビレエイも引き寄せてしまう。ラウール氏によると、この漁では、望まないサメとエイが全漁獲量の10%を超えるという。(参考記事:「衛星で漁船を追跡、なんと海面の55%超で漁業が」)
サメはふつう、カゴに入っても死なないが、ストレスを受けて消耗してしまうため、漁師が海に放してもすぐに大型のサメやその他の魚の餌食になってしまう。サメは漁の損益にも影響する。サメがカゴに入らなければ、その分、ゴウシュウマダイが入れるからだ。
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