野生動物の家畜化について研究するため、60年近くにわたり、ロシアの科学者たちは従順なキツネと攻撃的なキツネを作る交配実験を行ってきた。これらふたつの集団のゲノムに注目した新たな研究によると、交配はキツネのDNAに驚くべき変化をもたらしていたという。動物の家畜化だけでなく、人間の社会的行動の理解においても重要なこの成果は、8月6日付けの学術誌「Nature Ecology and Evolution」に発表された。(参考記事:「野生動物 ペットへの道」)
1959年、ドミトリー・ベリャーエフという名の生物学者とその同僚たちが、イヌがなぜ家畜化されたのかを理解するために実験を開始した。彼らは、イエイヌはオオカミの子孫であると考えていたが、イヌとオオカミの解剖学的、生理学的、行動的な違いについては、いずれもまだ理解していなかった。
しかしベリャーエフは直感的に、鍵はイヌの従順さにあると考えていた。彼は、白いまだら模様、巻いた尾、たれ耳、小さな頭骨など、家畜化された動物に共通する体の特徴は、人間に対して従順になった結果として現れたものという仮説を立てた。(参考記事:「犬は人が見ると「悲しげな子犬の顔」をすると判明」)
数千年を数十年で
ベリャーエフは、特に友好的な個体同士を交配させることによって、キツネを家畜化できるのではないかと考えた。数千年という時間をかけてオオカミがイヌになったプロセスを、人工的に模倣してみようというわけだ。彼はカナダの毛皮工場から連れてきたアカギツネの集団を育てて、ソ連の研究所で研究を開始した。
ベリャーエフの仮説の正しさはやがて証明された。攻撃性の低い個体同士を交配させて生まれた個体は、人間とのつながりを持ちたがるようになっただけでなく、白いまだら模様や巻いた尾、たれ耳など、家畜化された動物の特徴を持つに至ったのだ。
こうした体の変化はすべて、人間が近寄ったときにどのような反応を示すかという基準だけによってもたらされたものだ。具体的には、興味を持って研究者に近づき、身体的な接触を許す個体なのか、それとも人を見ると後退りして、恐怖からシャーッという音を立てたり、キャンキャンと吠え立てたりするかなどだ。
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