イエメン、行き場のない患者たち

内戦で医療システムが崩壊、必要な治療を受けられない人々がいる

2018.08.07
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空襲で破壊されたアッダリの学校。ほかにも数百校が被害に遭い、650万人いる学齢期の子どものうち200万人が学校に通っていない。PHOTOGRAPH BY MATTEO BASTIANELLI

 朝9時30分、若い女性がイエメン南西部の古都タイズにある救急病院に運び込まれた。自宅の庭で洗濯物を干していたところに爆弾が落ちてきたという。いとこの男性が血まみれのまま泣き叫んでいる。女性の脚は原形をとどめていない。医師は切断する位置を手で示した。「両脚ですか?」と男性が聞き返すと、医師はうなずいた。彼女が救急車で別の病院へ搬送され、静寂が戻ると、看護師たちは床の血を拭き取って次の患者を待った。

 紅海の入り口という戦略的に重要な位置にあるイエメンは、香辛料などの交易で潤う豊かな国だった。だが、今では最貧国の一つに数えられている。南北に分裂していた国は1990年に統一されたものの、その後も紛争が絶えず、2014年の後半、フーシー派の反乱軍がクーデターを企て、首都サヌアを制圧した。すると、隣国のサウジアラビアが自国への飛び火を避けようと、国外へ逃げた大統領アブド・ラッボ・マンスール・ハーディーの代理としてこれに介入。米国や英国のほか、10カ国ほどのアラブ諸国が協力する連合軍を主導して空爆を始めた。

 内戦が始まって3年。国連によると、人口約2900万人のうち、人道支援が必要なのは2200万人。避難民は200万人で、死者は少なくとも1万人に達するという。経済と医療システムが破綻した今、治療が必要な人々は、危険を冒して国内を長距離移動し、人道支援団体が運営する病院へ行くか、治療費が法外に高い私立の診療所へ行くかという、厳しい決断を迫られる。安全な飲み水などの行政サービスが行き届かず、感染症がまん延しているが、機能している病院は半数にも満たない状態だ。

 女性が最初に運ばれた病院のビルは、紛争前にはホテルになるはずだった。今は「国境なき医師団」が運営する、産院兼外傷の救急センターになっている。

 公立病院では2016年以降、医師や職員に給与が支払われていない。人道支援団体が援助をしているものの、連合軍が反政府軍への物資補給を断つために空港や港を封鎖しており、支援物資の遅れも相次いでいる。17年以来、コレラの疑いがある患者の数は100万人を超えるが、あるNGOが同年の7月に発注した医薬品が届いたのは9カ月後のことだった。  

 公立病院の医師の多くが私立へ移るか国外へ移住し、医療専門家も不足している。私立の診療所は機能しているものの、医療費は高額で、中間層の市民でさえ支払うのは難しい。空路で国外へ向かう手もあるが、稼働している空港は国内で2カ所。そこまでのガソリン代を工面できる人も、前線を突破するリスクを冒すことができる人も、ほぼいないのが現実だ。

※ナショナル ジオグラフィック8月号「行き場のない患者たち」では、内戦で医療システムが崩壊、必要な治療が受けれないイエメンの人々についてレポートしています。

文=ニーナ・ストローリック/ナショナル ジオグラフィック英語版編集部

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