4歳のころ、米国中西部の郊外に住んでいた。農場が多く、直線の建物と道路ばかりの場所だった。わずかに神秘性が感じられたのは、おとぎ話をテーマにした地元の小さなゴルフコースだけだった。
だが、4歳になって半年がたったとき、別世界に放り込まれることになった。オランダのフリースラント州にあるヒンデローペンという小さな村に引っ越したのだ。(参考記事:「ヨーロッパ中を旅するサーカス一家、愛すべき日常に密着 写真24点」)
古い童話に出てくるような、ゆるやかに傾斜した三角屋根の家だった。ヤネケという近所の女の子は、水路には人魚がいて、牧場にはお腹を空かせたトロールが子どもを狙って隠れていると言った。怖がったふりをして学校まで走った。真っ赤なチューリップの花や草を食む羊たちを見ながら、低地の牧場を駆け抜けた。(参考記事:「夢の国かお伽話か、いつか行きたい欧州の名城10選」)
小さな村を愛するようになったのは、それが始まりだ。そしてやがて、小さな村を巡る旅をするようになった。ヒンデローペンのような魔法の村を探しつづけた。電気もないような秘密のお気に入りの村の名前を、ほかの旅人たちと交換した。それぞれが、田舎の宿泊地のリストを大切に管理した。大人になってヨーロッパ中を巡るようになると、そのリストは増えつづけ、フォルナルッチ、ファール、アピランソス、ドッツアなど、さまざまな国の美しい情景を集めた詩集のようになっていった。
そのなかでひときわ目を引くのは、ローテンブルク・オプ・デア・タウバーというドイツ、バイエルンの小村だ。この村が中世の舞台装置に似ていることに気づいたのは、私だけではない。19世紀の画家たちから21世紀のインスタグラマーまで、多くの人々がそう考えている。あのウォルト・ディズニーも、この村をピノキオの村のモデルとした。
なぜローテンブルクはそのような村になったのだろう。それは貧しさのせいだ。ルネサンス時代に繁栄していたこの村は、三十年戦争とペストのダブルパンチを受けて衰退していった。それがよく知られている村の成り立ちだ。金のある町は未来に向けて絶えず脱皮して進化していくが、開発や成長の余裕すらない困窮した片田舎は、過去にしがみつくしかない。そしてそれこそが、この村の魅力なのだ。(参考記事:「チーズ好きなら一生に一度は訪れたい街 5選」)
それがわかったのは、大半の観光客が去ったあと、夕暮れ時のローテンブルクを歩いているときだった。この村は、単に時間を巻き戻したものではない。それをはるかに超える、魂のこもったバイエルン文化の象徴なのだ。ほかの場所からは消えてしまっているかもしれないものが、ここには無傷で残されており、そのままの姿で存在しつづけている。
次の魔法の村に巡り会ったのは偶然だった。ぼろぼろのフォルクスワーゲン・ビートルに乗って英国コッツウォルズを旅していて、小村スウィンブルックに一目惚れした。(参考記事:「【動画】けが人続出!コッツウォルズのチーズ転がし祭り」)
スウィンブルックという村には、必要最低限のものしかない。パブと教会、何軒かの石造りの家のほかは、ほぼ何もないのだ。しかし、ほかには何もいらない。1880年ごろに作られたスワン・インという宿がある。天井に梁が見えるすばらしい建物で、『ダウントン・アビー』というテレビドラマにも登場した。
その後は、小さな村ばかりを狙って訪れるようになった。世界の北端でいつも心を惹かれるのは、スカンディナビアの冷たい美しさだ。スウェーデンのサンドハムンは、ストックホルム近郊の群島の端付近にあり、バルト海に浮かぶサンド島唯一の集落だ。
孤立は村の文化を守ってくれる。私はこれからも人里離れた場所で、その美しさを繰り返し目にするだろう。
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