「送風機を使って嵐の強風を再現したのは、非常に独創的で見事なアイデアです」。米ハワイ大学の生態学教授、アンバー・ライト氏はそう語る。
「この研究が興味深いのは、体の大きさと木の枝にしがみつく能力という特定のメカニズムを通じて、トカゲの特徴と生き残りを関連付けていることです」。こうした研究は、嵐を生き延びるうえで何がトカゲを有利にさせるのか、そして究極的には、どのような特徴が自然選択の中で引き継がれやすいのかを推測する手がかりとなる。(参考記事:「野鳥のクチバシ、餌付けで長く進化か、英国」)
実験の動画を分析した研究者らは、トカゲが棒につかまっていられなくなるときには、まず後肢が離れ、その後に前肢が離れることに気がついた。
これを踏まえると、前肢も後肢も長い個体であれば、さらにしっかりと木にしがみつけるのではないかとも思える。ドニヒュー氏は、その点についてははっきりとしたことはわからないとしながら、体全体が大きくなることに代償があるのではないかと述べている。「大きな個体は力も強いでしょうが、より多くの風を体に受けるリスクがあります」(参考記事:「【動画】血の涙で攻撃! ツノトカゲ、驚異の護身術」)
風ニモマケズ
嵐や新たな捕食者の登場といった大きな出来事が起こると、動物が大量に死んでふるいにかけられるため、自然選択のプロセスが加速することがある。米ペンシルベニア州立大学の生物学者、トレイシー・ラングキルド氏によると、自然選択が急速に進んだ例としては、カニから身を守るために殻の厚みを増したイガイの仲間がいるという。また、毒を持つ外来種であるオオヒキガエルに対抗するため、一部のヘビの頭部の大きさが世代を重ねるごとに急速に縮小した例もある。
「ドニヒュー氏の研究は、極端気象が急速な自然選択を起こしうる初の証拠のひとつです。この研究をきっかけに、ほかの種で同様な研究が活発になるでしょう」と、ラングキルド氏は言う。
ライト氏は、今回の研究の内容が必ずしもほかの種に当てはまるわけではないだろうが、重要なのは方法論だと述べている。もし特定の環境の変化に注目した研究がさまざまな種において進めば、動物が自然災害でどのように変化するのかを理解する一助となるだろう。
「気候変動によって大きな災害が増えると考えられている現在、こうした予測を可能にすることは、地域集団を管理し、回復力を増強する方法を探るうえで大きな意味があります」(参考記事:「より遅く危険になる台風、上陸後の速度は30%減」)
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