29回にわたるレーダー観測
人類が地下の水を嗅ぎつけることのできる探査機を火星に送り込むようになったのは21世紀になってからだった。
その1つである欧州宇宙機関の火星探査機マーズ・エクスプレスは、2003年から火星の軌道を周回しているが、これに搭載されているMARSISという観測装置は、レーダーパルスを利用して火星の地下を探っている。MARSISは低周波数の電波を火星に照射し、跳ね返ってきた反射波を調べることで、地中にあるものを推測できる。
MARSISチームは2008年、火星の南極付近にある氷床が何層にも重なっている領域で、非常に明るい反射を発見。この領域を詳細に観察することにした。(参考記事:「火星では夜に激しい雪が降る、研究成果」)
それから数年間に収集したデータはあまり役に立たなかったが、研究チームは2012年の観測から全体像を描くのに十分なデータを収集できるようになった。研究に必要な情報が揃ったのは、それから3年後、29回におよぶレーダー観測のあとだった。
MARSISのデータ解析は容易ではなかった。それからの2年間、研究チームは地下の湖以外の可能性を1つ1つ否定していった。
科学者たちは、火星での反射率のパターンを、地球で見られるパターンと比較することによって、自分たちが発見したものが地下の湖であることを確信した。湖の深さは数メートルで、各種の塩(えん)を含んでいるため、極端な低温でも氷にならずに液体の状態にあると推測している。
ゆるい泥の可能性も
マーズ・エクスプレスのチームは、今回発見された湖を、グリーンランドや南極大陸の氷床の下にある湖と比較する。こうした湖にはかなり巨大なものもあり、生命も生息している。(参考記事:「火星から見た地球と月の写真をNASAが公開」)
しかし、火星の地下の「湖」が本当に湖であるとは考えていない人もいる。研究チームも、くぼ地を満たしているのは水ではなく、水で飽和した堆積物(ゆるい泥)の可能性もあると言っている。その性質を厳密に特定するには別の観測装置が必要だとペティネッリ氏は言う。
「情報が足りないので、湖か泥沼か断定することはできません。湖の方が興味深いのですが」
現在、火星の周回軌道上にはレーダーで地中を探れる探査機がもう1機あり、これが話を少々ややこしくしている。
NASAのマーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)に搭載されたSHARADという観測装置の運用チームのメンバーである米スミソニアン国立航空宇宙博物館のブルース・キャンベル氏は、「私たちにはこの反射体は見えません」と言う。
2006年から火星の軌道を周回しているMROは、火星の南極の堆積物の層を含め、広大な範囲をレーダーで探査してきたが、 地下の湖のようなものは見つけていない。
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