チェルノブイリで暮らすハイイロオオカミのうち、どの程度が放射線の影響を受けているかははっきりしない。一方で個体数は増加し汚染地域から離れるオオカミもいる。こうしたオオカミがほかの地域のオオカミに与える影響が、新たな問題として浮かび上がっている。(PHOTOGRAPH BY SERGIO PITAMITZ, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 原子力事故が起きたウクライナ北部、チェルノブイリ原子力発電所。事故が起きた1986年、一帯は放射能汚染が広がり、人は住めなくなった。しかし、野生動物にとってチェルノブイリは、今も昔も自由に移動できる場所のままだ。

 チェルノブイリの立入禁止区域内には、ハイイロオオカミなどの大型動物が数多くいることが複数の研究でわかっている。汚染区域は米国のロードアイランド州と同じくらいの面積(日本で言えば滋賀県ほど)で、人間の居住は認められていない。

 しかし、野生動物も放射線による体への影響から無縁ではいられない。ただ、この分野の研究は盛んで、ときに議論を呼ぶ。放射線がどの種に影響を与え遺伝的変異を引き起こしているのか、放射線による遺伝的変異が立入禁止区域外にも影響が広がるのかについて、わかっていないことが多いからだ。(参考記事:「事故から30年、チェルノブイリが動物の楽園に」

区域外を400km歩き回るオオカミ

 最近、放射線を測定できる首輪を使って13匹のオオカミの追跡調査が行われた。汚染区域を歩き回る分だけ、オオカミは放射線にさらされていることがわかったが、これは想定した通りの結果だ。注目すべきは、次の点だ。首輪をつけた1匹の若いオスは、まず東に向かってベラルーシに入り、その後ウクライナに戻り、やがてロシアに入っていたのだ。汚染区域から出て400キロメートルほど歩き回ったことになる。これらの観測結果は、学術誌「European Journal of Wildlife Research」に掲載された。

 この調査を率いた米ジョージア大学の野生生態学者、ジム・ビーズリー氏によると、オオカミがチェルノブイリの立入禁止区域を出て長い距離を移動することが実際に確認されたのは、これが初めてだという。

 若いオスのオオカミは、メスを探して長い距離を動き回ることが知られるため、400キロメートル歩いたこと自体は驚くことではない。だが、このことはチェルノブイリ一帯に多くのオオカミがすみ着いていることを改めて示した、とビーズリー氏は言うのだ。

 この研究の筆頭著者で、米ミズーリ大学で動物の移動や生態について研究しているマイケル・バーン氏は、「チェルノブイリの立入禁止区域に、たくさんのオオカミがいることは既にわかっています」と述べる。「どんな動物でも、個体数があるレベルに達すると、それ以上の個体が同じ場所で生活するのは難しくなります。若い動物が外に出ていくというのは、このことを示しているのです」

 バーン氏は「若いオオカミにとっては、ようやく仕事を探しに外の世界に出る時が来たということでしょう」と冗談めかして言う。(参考記事:「チェルノブイリの記憶、立入禁止区域に侵入する『ストーカー』写真16点」

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