「体内に虫」妄想の難病、10万人に約27人も、米国

とてもリアルな虫の感覚、治療は困難、「寄生虫妄想」で初の集団ベース研究

2018.06.27
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 実際に、かゆみや虫が這い回る感覚を引き起こす原因が存在する場合も多々ある。アレルギー、食事、ストレス、神経疾患、一般的な薬の副作用などは、どれもそうした症状の主原因となりうる。これが、患者の訴えを軽く扱うべきではない理由のひとつだ。一方で、かゆみなどの症状から始まったものが、主に虫を原因とみなす強迫観念となることも少なくない。(参考記事:「脳に入る寄生虫が温暖化で北上、ナメクジに注意」

「一般に、節足動物に対して不安を感じている人が多いのです」と、米コネチカット州農業試験場の昆虫学者、ゲイル・リッジ氏は言う。「ですから何かに噛まれたと思ったとき、人は自動的に節足動物を連想します。これはほとんど本能的なものです」

絶望的な患者、治療拒否の傾向も

 鼻の中に虫がいると訴える男性をリッジ氏が知ったのは、彼の家族からメールを受け取ったからだった。リッジ氏はトコジラミの研究をしており、一般の人々からの問い合わせも受け付けている。最近では、見えない虫への対応に多くの時間を割かれていると彼女は言う。2017年だけでも、虫やダニなどに寄生されたと思い込んでいる人が300人はやってきたそうだ。(参考記事:「家庭で自作、簡単トコジラミ対策」

人の血を吸うトコジラミ。(PHOTOGRAPH BY EDWIN REMSBURG, VW PICS, GETTY IMAGES)
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 患者たちの話はそれぞれに異なるが、すべてに非常に似通った共通点があると、米ジョージア大学の昆虫学者、ナンシー・ヒンクル氏は語る。そのひとつが、患者が自分の体や家から「虫」の標本を集め、それをビニール袋に入れて提出することだ。そうした標本の大半は、単なるホコリや糸くず、毛髪、かさぶたなどだ。

虫の「標本」は、この顕微鏡写真のような、単なるホコリや糸くずである場合が多い。(PHOTOGRAPH BY NANCY C. HINKLE)
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 もうひとつの共通点は、患者たちが「望みがない(desperate)」という言葉を使うことだとヒンクル氏は言う。「彼らは電話をかけてきてこう言うのです。先生、助けてください――もうほかに望みがないんです」。通常、その時点で彼らはすでに何人もの医者にかかっている。

 症状を引き起こす身体的な原因が見つからない場合、医者であれば妄想に対する治療薬を処方できる。リッジ氏はしかし、患者をそういった治療に対して前向きな気持ちにさせるのも難しいと語る。

「多くの患者が妄想に対する治療を拒絶します」。メイヨー・クリニックの皮膚科医で、先述の寄生虫妄想に関する論文を執筆したマーク・デイヴィス氏は言う。「わたしの頭がおかしいと言うのですか、そんなはずありませんと彼らは言うのです」

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