祖先をたどることを目的とした標準的な検査では、個人の遺伝子を調べて、DNAのなかに様々な民族集団と一致するマーカーが繰り返し並んでいる領域を特定する。ただし、この結果は独立機関によって検証されるわけでもなく、検査会社も検査の標準化に同意していないと、米タフツ大学教授のシェルドン・クリムスキー氏は指摘する。会社によって検査結果が異なるという報告も多い。

 だが、祖先探しと違って、直接的な血縁関係の場合はかなりの高精度で特定できるようになっている。やり方は複数あるが、ここでは、個人のDNAを直接比較する鑑定法が採用される可能性が高い。検査結果がデータベースにアップロードされ、膨大なデータの中から似たような塩基配列の持ち主を検索する。親子関係が認められた場合、親は連絡を受け、引き裂かれた子どもとの再会を果たす。

 サンプルが正しく採取されれば、およそ99.9%の正確さで親子関係を特定可能だと、ヴィラー氏は言う。「科学の観点で言えば、可能だと思います」。だが、実際に実施するとなると、様々な問題が持ち上がる。

エルサルバドルから北方を目指し、国境の町メキシコのレイノーサにあるシェルターまでたどり着いたパトリシア・フローレスさん親子。(PHOTOGRAPH BY AMANDA VOISARD, AUSTIN AMERICAN-STATESMAN, AP)
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プライバシーや同意の問題は?

 まず、検査を行う前に本人の同意をどうやって得るかが問題となる。未成年者の場合、個人情報保護法により、サンプル採取にはそれぞれの子どもに任命された法的保護者か代理人の同意が必要だが、今回の場合それは明らかに無理な話だ。成人の場合は、同意があったとしても、彼らは現在移民として拘束中の身であるため、本人の完全な自由意志による同意とは言いにくいと、米ジョンズ・ホプキンス大学マキューシック・ネイサンズ遺伝医学研究所のエイダ・ハモッシュ氏は指摘する。

 さらに、DNAを提出することの重大さをどうやって理解させるかという問題もある。

 ジョンズ・ホプキンス・ベルマン生物倫理研究所の准教授デボラ・マシューズ氏は言う。「このサービスを受ける人の多くは、英語を話しません。また、この検査が厳密にどういうものであるかを理解するだけの教育も受けていません」

 現在の米国の法律では、遺伝子データがいったん検査会社のデータベースにアップロードされてしまうと、裁判所を通して警察もその情報を使うことができる。

「合法の裁判所命令や召喚状を持っていれば、警察もデータベースへアクセスできるのです」と、マシューズ氏。最近では、ゴールデン・ステート・キラーと呼ばれる連続殺人犯が、DNAデータベースを使って突き止められ、逮捕にいたった事例がある。意図的にしろそうでないにしろ、自分の遺伝子情報を提出すれば、自分や血縁者を犯罪捜査の対象にしてしまうということもありうる。(参考記事:「真犯人を追う 科学捜査の現在」

「あなたのDNAは、あなただけが持っているわけではありません。程度の違いこそあれ、全ての血縁者には共通するDNAがあるのです」

 ここではっきりさせておきたいのは、ゴールデン・ステート・キラーの捜査では、「GEDマッチ」と呼ばれる誰でもアクセス可能なデータベースが使われたということだ。一方、23アンド・ミーもマイヘリテージも、プライベートのデータベースである。また、両社ともに個人情報を守ることの必要性は認識し、対応策に取り組んでいる。

ギャラリー:ヨーロッパの入り口で足止めされる少年難民たち 写真25点(画像クリックでギャラリーページへ)
8歳のデラガ・クアンダガ。ヨーロッパへの旅がいかに過酷であるかを、アフガニスタンにいる両親には伝えていない。(PHOTOGRAPH BY MUHAMMED MUHEISEN, NATIONAL GEOGRAPHIC)

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