だが、1トンにつき100ドルでも、二酸化炭素を買い取りたいという業者は少ない。そこでカーボン・エンジニアリング社は、カーボン・ニュートラルな液体燃料を作ることにした。回収された二酸化炭素を、水を電気分解して得られた水素と合成する。大量の電力が必要だが、スコーミッシュの試験プラントでは、再生可能な水力発電を利用している。
その結果でき上がった合成燃料は、ガソリン、軽油、ジェット燃料として混合してもよいし、それだけで使うことも可能だ。これを燃焼すると、排出される二酸化炭素の量は燃料を製造するのに使われた量と同等になるため、カーボン・ニュートラル(炭素中立)になるという仕組みだ。
化石燃料と競争できるか?
同社最高経営責任者のスティーブ・オールダム氏はインタビューのなかで、「今のところは1バレルの原油よりも費用がかかりますが、カリフォルニア州のように低炭素燃料基準があるような地域で、排出量1トンにつき200ドルの『炭素価格』がつくようになれば、十分競争できると思います」と語った。
「炭素価格」とは、二酸化炭素を排出する企業がその排出量に応じて支払うコスト。ブリティッシュ・コロンビア州では、1トンにつき35カナダドルの値が付き、炭素税として徴収されている。カナダ全体では、2018年9月に10ドルと定められ、2022年にはそれが50ドルにまで引き上げられる。米国で炭素税を導入している州はないが、ワシントン州は排出量1トンにつき「炭素汚染料」として15ドルを徴収する発議案を住民投票にかける予定だ。(参考記事:「大都市の温暖化ガス、実は60%増、消費ベースで」)
「とても楽しみなプロジェクトです。Joule誌で示されている数字は期待が持てそうです」と、1990年代に大気から二酸化炭素を回収するという概念を提唱した米アリゾナ州立大学ネガティブ・カーボン・エミッション・センターのクラウス・ラックナー氏は言う。カーボン・エンジニアリング社は、それが実現可能であり、費用対効果も高いことを証明した。産業界にとって非常に重要な一歩であると、ラックナー氏はインタビューで語る。
次の段階は、スケールの拡大だ。「炭素フリー」燃料を大量に生産する本格的な工場の数を増やしていけば、さらなる低コスト化が図れる。太陽光や風力エネルギーも、生産規模の拡大により数十年の間に大幅にコストが下がった。価格が下がれば、参入者も増えるだろう。(参考記事:「ドイツが挑むエネルギー革命」)
「(気温上昇を2度未満に抑えるには)この産業が1兆ドル規模になる必要があります。途方もない規模と思われるかもしれませんが、今の航空産業の方がはるかに大きいですから」と、ラックナー氏。
カーボン・エンジニアリング社は、低コストの再生可能エネルギーを使って1日に200バレルの合成燃料を製造する大規模工場を建設中である。2020年の操業開始を見込み、この技術をライセンス化することも検討中だ。
「規模を拡大して、世界的な市場にすることは十分可能だと思います」と、オールダム氏。「必要な原料は空気と水だけ。それにわずかな電力さえあれば」。そして、この技術のライセンスを取ることだ。(参考記事:「ソーラー道路の開発進む、仏は5年で1000kmに」)
おすすめ関連書籍
変化していく地形、水浸しの生活を強いられる人々、生息域を追われる動物たち、そして経済的ダメージまで、人類史上最大の危機を徹底レポート。気候変動によって変わりつつある世界の今に迫る1冊。
価格:1,540円(税込)