パトラット氏が注目したのは、Adansonia digitataという学名を持つアフリカのバオバブだ。この種は、アフリカ大陸や近隣の島々のほぼ全域に分布している。
パトラット氏によると、アフリカでは、特に大きく古いバオバブは南部に集中している。しかし、2005年以降、最古級の13本のうち8本が、そして最大級の樹高のバオバブ6本のうち5本が、部分的に枯れたり、枯死したりした。しかも、この中には、パブとして使われた「サンランド・バオバブ」をはじめ、ジンバブエの「パンケ」という聖なるバオバブ、「グルートブーム」と呼ばれるナミビアの大木、ボツワナにある「チャップマンのバオバブ」といった、世界的に知られるバオバブが含まれている。
研究データの母集団は小さいとはいえ、憂慮すべき兆候であることに変わりはない。「バオバブは人間の何世代にもわたるほど長生きするのが普通です。この状況が続けば、私たちのほうがバオバブよりも長生きしてしまいそうです」とパトラット氏は話す。
タンザニアのダルエスサラーム大学の植物学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーでもあるヘンリー・ナダンガラシ氏も、この発見に衝撃を受けた1人だ。ナダンガラシ氏は、「バオバブに問題など起きはしないと安心しきっていました」と述べている。
原因は気候変動か
パトラット氏のグループは、木が枯れる原因は病気ではなく、気候変動による温暖化と乾燥化の影響ではないかと考えている。巨木として知られるバオバブばかりでなく、ほかのバオバブの木が枯れるペースが上がっていることもわかっている。アフリカの中でも、温暖化が進んでいる地域では特にそれが顕著なのだ。
もちろん、気候変動とバオバブの大量枯死を結びつけるのは早計で、さらなる調査は必要だろう。ただ、学術誌「Biological Conservation」で発表された別の研究で「絶滅の危機に瀕したマダガスカルの3種のバオバブのうち、2種が気候変動による被害を受けている」と結論していることを看過すべきではない。
地球の温暖化で降雨量の変動が激しくなることで、バオバブの生育地は限られていくだろう。マダガスカル政府は、今後の生育地としてふさわしい保護地域を決めきれずにいる。(参考記事:「新種のキツネザル、まんまる目玉でリスより小さい」)
中米コスタリカの熱帯雲霧林でも植物が被害を受けている。メキシコ国立生態学研究所の森林生態学者で、同じくナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーであるタリン・トレド・アセベス氏は、これも温暖化による可能性が高いと言う。(参考記事:本誌2015年6月号「消える北米の森」)
「残念ですが、バオバブの研究からわかったことは、驚くべきことではありません」とトレド・アセベス氏は話す。「アフリカ南部で起きている、古いバオバブの大量枯死の理由はわかりません」
トレド・アセベス氏は、研究の対象となったバオバブの数が少ないことを指摘し、非常に考えにくいことだが、古い個体の自然枯死である可能性もゼロではないとも述べている。
しかし、アセベス氏は続ける。「バオバブは、2000年以上生きるのが普通です。研究者は特に古い個体に注目していますが、この短い期間で70%以上が枯れたということに、注目すべきです」。つまり、短期間に多くのバオバブが枯れていることを見れば、やはり自然枯死とは考えにくいということだ。
「2005年から2017年まで、ほんの12年です。バオバブの長い寿命を考えれば、自然枯死と片付けることはできません」
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