コウモリのお母さんが、無数の赤ちゃんの中から見事自分の子どもを探し出す様子をとらえた珍しい映像が発表された。
このコウモリは、北米にすむレッサーハナナガコウモリ(Leptonycteris yerbabuenae)。メキシコの蒸留酒、テキーラの原料となるリュウゼツランの花粉を媒介することから、「テキーラコウモリ」の愛称で知られている。
夜間、花の蜜を探して飛び回ったテキーラコウモリの母親は、自分の子どもの世話をするためにすみかの洞窟に戻ってくる。ところが、ここからが難しい。洞窟では群れの赤ちゃんがすべて密集し、大集団を作っているからだ。皆、真っ暗な洞窟の中でお腹をすかせて待っている。(参考記事:「コウモリやナマケモノはなぜ逆さまでも平気なのか」)
テキーラコウモリの生息地は数々あるが、なかでもここ、米国南西部のソノラ砂漠にあるピナカテ・アルタル大砂漠生物圏保護区は、最大の出産場所となっている。テキーラコウモリは冬にメキシコで交尾をし、春には北へ移動して、米国南西部で子どもを産む。
ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーであるベゴーニャ・イニャリトゥ氏は、コウモリの母子の絆についての研究を行った。彼女が撮影した動画には、コウモリが完全な暗闇の中で自分の子どもを探し出す貴重な場面が映っている。(参考記事:「闇に浮かぶ美しい荒野、写真5点」)
テキーラコウモリの母親はまず、大量の赤ちゃん集団のそばに着地する。お腹をすかせてお母さんを呼ぶ赤ちゃんたちは、人間の目にはどれもまったく同じに見える。
しかし、着地した母親は赤ちゃん集団の上を這うようにして、見事に自分の子どもの方へ移動していく。
イニャリトゥ氏によると、これは複数の感覚器官を駆使した行動だという。母親はにおいと鳴き声を頼りに赤ちゃんを探し、赤ちゃんの方も母親を認識しているのではないかと考えている。(参考記事:「コウモリを誘う花の“声”」)
「母親が赤ちゃん集団の上に乗るのとほぼ同時に、子供は興奮しはじめ、体を母親の方へ向けます」
赤ちゃんと出会った母親は、子どもを舐めて乳首に吸い付かせると、2匹一緒に洞窟内の別の場所へと飛んでいく。
子育てをするコウモリの日常のやりとりを研究することは、将来の保護につながるとイニャリトゥ氏は言う。今年、テキーラコウモリは、コウモリとしては初めて、米国の絶滅危惧種リストから除外されたが、完全復活を遂げるかどうかは、生息地の減少などの環境問題に大きく左右される。
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