世界に広がるプラスチック汚染との闘いで、突破口となる可能性を秘めた物質が発見された。プラスチックを分解する酵素だ。
今回の発見は将来的に、環境内に数百年間残留するはずの何百万トンものプラスチックをリサイクルする解決策につながるかもしれない。ペットボトルをはじめ、食品容器、服の繊維などの製造に用いられるポリエチレンテレフタレート(PET)を分解できるこの酵素を発見した経緯は、4月17日付けの学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」の論文に書かれている。
偶然の発見
英ポーツマス大学のジョン・マギーハン教授と米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)のグレッグ・ベッカム氏は、ある酵素の働きを解明しようと、結晶構造を詳しく調べていた。その最中に、2人が率いるチームは偶然、自然界で得られたものよりも、プラスチックを強力に分解する新たな酵素を作り出した。(参考記事:「プラスチック食べる虫を発見、ごみ処理には疑問」)
チームは現在、酵素の効果をさらに高めて、産業レベルで使えるようにする研究を続けている。これが成功すれば、プラスチックをまたたく間に分解できるようになるかもしれない。(参考記事:「重金属を食べる“スーパーミミズ”発見」)
マギーハン氏は言う。「プラスチック問題には、誰しも大きな貢献ができますが、この『脅威の物質』を作り出したおおもとである科学コミュニティは、今こそ、真の解決策のためにあらゆる技術を投入すべきです」(参考記事:「太平洋ゴミベルト、46%が漁網、規模は最大16倍に」)
酵素の進化
ブレイクスルーが起こったのは、日本のごみリサイクル場で発見された、プラスチックを分解する酵素の構造を調べていたときだった。同酵素がどのように進化したのかを解明し、さらなる改良が可能かどうかを確かめるためだった。ところがその検証の最中に、偶然にもPETをさらに効率よく分解できる酵素ができてしまったのだ。
「基礎科学研究においては、偶然が大きな役割を果たすことがよくあります。今回のわれわれの発見も例外ではありません」とマギーハン氏は言う。
「改良の程度はささやかですが、今回の予期せぬ発見は、これらの酵素にはさらなる進化の余地があることを示しています。積み上がるばかりの廃棄プラスチックの山に対するリサイクルの解決策に現実味を持たせてくれるものです」(参考記事:「海洋ゴミ、最も効果的な対策は?」)
廃棄プラスチック
研究チームはこの先、タンパク質工学およびタンパク質進化という分野の手法を用いて、酵素のさらなる改良を目指していく。また新たな酵素は、バイオ由来のPET代替プラスチックであるポリエチレンフランジカルボキシレート(PEF)を分解することもわかっている。PEFは現在、ガラスのビール瓶の代替品として需要が高まっている素材だ。(参考記事:「鳥と恐竜を結び付けたティラノサウルスのタンパク質」)
マギーハン氏は言う。「新たな酵素の開発方法は、バイオ洗濯洗剤や、バイオ燃料の製造に使われる酵素のときとほぼ同じです。これからの数年間で、PETのみならず、その代替品のバイオプラスチックであるPEF、PLA、PBSといった成分まで、元の素材に戻して持続的にリサイクルする方法を、産業規模で確立できる可能性が十分にあります」