もし魚の皮膚がガラスのように滑らかで、単純な構造だったら、光子がそのまま跳ね返り、おなかをすかせた捕食者に見つかってしまう。一方、皮膚の構造が複雑だったら、光子が捕捉され、まるでピンボールのようにあちこち跳ね返る可能性が高まる。
オズボーン氏は最近、野生のスーパーブラックフィッシュ7種を採集し、皮膚の表面構造を確認した。その結果、人間にもある黒い色素メラニンの小さな粒が、目まいがするほど複雑な微細構造を形成しており、とても複雑なピンボールの台のようになっていることがわかった。もはや光に勝ち目はない。
ヨンセン氏らの研究によれば、光の吸収率が99.9%に達している種もいるという。つまり、1000分の1の光子しか皮膚の表面から逃れられないということだ。(参考記事:「【動画】超深海に新種の魚、ゾウ1600頭分の水圧に耐える」)
最も黒い黒
こうしてスーパーブラックフィッシュは暗黒生物の仲間入りを果たした。知られている限り、最も黒い生物のひとつだ。
“最も黒い黒”の記録保持者は、オーストラリアなどにすむ極楽鳥(フウチョウ)だ。その羽毛は最大99.95%の光を吸収する。(参考記事:「「地上で最も黒い」極楽鳥」)
雄の羽毛が複雑な微細構造を獲得したのは、より黒い黒によって色鮮やかな模様を際立たせるためだと考えられている。最終目標は当然、メスの誘惑だ。(参考記事:「極楽鳥の世界へようこそ!」)
米エール大学の鳥類学者リチャード・プラム氏は、深海魚が光を吸収する「斬新なメカニズム」に感銘を受けている。
「鳥の羽毛やチョウの鱗粉(りんぷん)は、基本的に微細な空洞で光を捕捉します」とプラム氏は説明する。一方、スーパーブラックフィッシュは、色素の粒で光を吸収する光学的な構造を皮膚の内側に持っている。(参考記事:「ジャイロイド構造が生むチョウの羽色」)
このユニークな構造は、人工のスーパーブラックをつくり、カメラや望遠鏡、ソーラーパネルに応用したいと考える科学者たちの関心を引いている。その大きな理由は、現在の生産技術が高くつくことだ。
もしかしたら、魅力的な笑顔と紫の発光器を持つムラサキホシエソが、その黒々とした体で次なる技術革新の扉を開けてくれるかもしれない。