ヒッグス粒子が見つからないほうに100ドル

 ホーキング博士はブラックホール以外の科学的トピックについても賭けをしている。素粒子物理学の標準モデルの「ミッシング・ピース」として長年探し求められてきた、ヒッグス粒子に関してだ。ヒッグス粒子は、ほかの多くの素粒子との相互作用を通じて質量を与える粒子として、1960年代から理論的に予言されていたが、それから何十年も発見されずにいた。そこでホーキング博士は、ヒッグス粒子が見つかるかどうかについて、ミシガン大学のゴードン・ケーン氏と賭けをした。

 2012年、ケーン氏は米国のNPRラジオのインタビューに答えて、「10年ほど前、韓国で開かれていた学会に参加していたときに、スティーブンもいたのです」と語っている。「スティーブンが、自分はヒッグス粒子がないほうに賭けると言ったので、私はすぐに『その賭けに乗った!』と言い、細かい点を話し合って、負けたほうが100ドル支払うことに決めました」

 そして2012年、欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の研究チームが、ヒッグス粒子が存在する証拠を発見。そのニュースが発表されたとき、ホーキング博士はヒッグス機構の理論を作ったピーター・ヒッグス氏の業績を称え、自分は賭けに負けたとコメントした。(参考記事:「ヒッグス粒子発見、ほぼ確実に」

異星人は危険か?

 ホーキング博士は晩年、人類が異星人と出会うことの危険について繰り返し警告していた。ドキュメンタリー番組「ホーキング博士のよくわかる宇宙」で、博士は、高度な文明を築きあげ、地球にまでやってくるような異星人は、友好的ではないかもしれないので、積極的に呼びかけを行うべきではないと主張している。(参考記事:「宇宙人はいるのか? 火星で見つかった怪現象」

 博士は、「高度な文明をもつ異星人は、到着した惑星を片っ端から征服して植民地化しようとするかもしれません」と語った。「限界がどこにあるかなんて、誰にもわかりません」。博士は2016年のドキュメンタリー番組「ホーキング博士のお気に入りの場所」でも、同様の主張を繰り返している。「人類と高度な地球外文明との出会いは、アメリカ先住民とコロンブスとの出会いに似ているかもしれません。アメリカ先住民については、その出会いは良い結果にはなりませんでした」

 科学者の多くはホーキング博士とは意見を異にしている。恒星間飛行は非常に困難であるうえ、そんな異星人がいるなら、地球から宇宙に漏れ出している電波により、地球文明の存在はとっくの昔に嗅ぎつけられているはずだからだ。(参考記事:「「人類は宇宙人に好意的」、発表が物議、米学会」

 その一人であるSETI研究所の上級天文学者セス・ショスタク氏は、2016年に「ガーディアン」紙に寄稿して、「地球への脅威となりうるような社会は、人類が70年前から宇宙に垂れ流している電波を拾える装置を持っている可能性が非常に高い」と主張している。「私たちはこれまでずっと自分たちの存在や場所を示す瓶入りのメッセージをせっせと宇宙に流してきたのだから、今になって瓶を流すことを躊躇するのは愚かである」

 その一方で、ホーキング博士は地球外生命の概念をすばらしいものと考え、見つけることができたら「人類史上最大の発見」になるだろうと語っていた。そして、約40兆キロの彼方にあるアルファ・ケンタウリ星系に超小型の宇宙探査機を送り込もうという「ブレイクスルー・スターショット」プロジェクトへの支持を表明していた。(参考記事:「【解説】ホーキング博士らの超高速宇宙探査計画」

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