中世ドイツの謎の変形頭蓋骨、異民族の花嫁だった

半世紀以上も専門家たちを悩ませてきたその正体がついに明らかに

2018.03.15
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 外見の違いは氷山の一角に過ぎない。さらに中世初期バイエルン人の遺伝子を現代人のそれと比較してみると、大きな違いがあることが判明した。

 男性の遺伝子はいまの北欧や欧州中央部の人々に近いのに対し、とりわけ、変形頭蓋を持つ女性たちの結果は驚くべきものだった。ルーマニアやブルガリアなど、いま欧州南東部にいる人々の遺伝子に近いものの、欧州南部の各地に由来する遺伝子がまちまちに交じり、なかには東アジア由来の遺伝子を2割以上もつ者が1人いた。いま欧州にいる人で東アジア由来の遺伝子をこれほどもつ人は知られていない。(参考記事:「欧州人の遺伝子、形成は旧石器時代か」

「考古学的には、彼女たちは属していた集団の人々とそれほど変わったところはありませんが、遺伝学的には全く異なっています」と、ドイツにあるマインツ大学の集団遺伝学者で、論文の著者であるヨアキム・ブルガー氏は語った。

 この研究結果から言えるのは、女性が地元に同化し、伝統を取り入れていったということだ。頭蓋変形の習わしも、彼女たちの代で途絶えたように思われる。だが、なぜ全く違う遺伝子の持ち主がこの場所に眠っていたのだろうか。

まるでドラマの題材になりそうな話

 ブルガー氏はその理由はわからないとしているが、仮説はある。バイエルン人と他の文化との間に、これまで確認されていない交流があったのではないか。ブルガー氏いわく「金髪ばかりの退屈な農村」にも、異文化が入り込んでいたのかもしれない。(参考記事:「青銅器時代の若い女性のグローバルな生き方が判明」

16世紀のラファエロによるフレスコ画「大教皇レオとアッティラの会談」を基に彫られた彫刻画。452年にフン族のアッティラ王とローマ皇帝レオ1世が面会した時の様子を描いたもの。4世紀以降、ゲルマン民族はローマ帝国の衰退によって欧州に生まれた権力の空白へ次々に侵入した。(PHOTOGRAPH BY INTRTFOTO, ALAMY)
16世紀のラファエロによるフレスコ画「大教皇レオとアッティラの会談」を基に彫られた彫刻画。452年にフン族のアッティラ王とローマ皇帝レオ1世が面会した時の様子を描いたもの。4世紀以降、ゲルマン民族はローマ帝国の衰退によって欧州に生まれた権力の空白へ次々に侵入した。(PHOTOGRAPH BY INTRTFOTO, ALAMY)
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 英ケンブリッジ大学の歴史考古学者スザン・ハーケンベック氏は、今回の研究にこそ参加していないが、同じ頭骨や他の女性たちのサンプルを使って、欧州にかつて存在していた頭蓋変形の風習を長年にわたり研究している。今回の研究対象となった6カ所の墓地のうち1カ所から出土した人骨について、その同位体を分析し、男と女では食べていたものに違いがあることを明らかにした。

 当時の変形頭蓋を分析したハーケンベック氏の論文は、ブルガー氏の仮説を裏付けている。中央アジアとオーストリアでは、男性も女性も、また子どもにも広く頭蓋変形が施されていたが、ドイツのようにより西の地方ではひと握りの成人女性にしか見られない。

「この時代、結婚や親族というものはあまり重要な機能を持っていなかったと考えられていました」とハーケンベック氏はいうが、男女の遺伝子の違いを明確にした新たな研究は、それが間違いであったことを示唆している。女性たちは、バイエルンの男性と結婚するために、わざわざこの異国の地へやってきたようだ。おそらく、戦略的同盟の結果であろう。

 しかし、一部の人口しか対象にしていないため、この結果は限定的だ。また、研究対象となった人骨のうち2人は後の時代のものだが、この2人の遺伝子にはさらに遠方に由来するものが含まれており、結婚のための移動パターンを示しているのかもしれない。

 中世の欧州で、濃い色の髪と変形した頭部を持つエキゾチックな女たちと金髪の農民たちが出会う。まるでドラマの題材になりそうな話だ。ブルガー氏も同意する。「文化の衝突です」(参考記事:「有名なバイキング戦士、実は女性だった」

【参考ギャラリー】思わずゾクゾクする考古学フォト13点(写真クリックでギャラリーページへ)
【参考ギャラリー】思わずゾクゾクする考古学フォト13点(写真クリックでギャラリーページへ)
ラ・ベンタの石頭 1947年のナショジオの写真。メキシコのラ・ベンタでオルメカ文明の巨大な石頭を調査する考古学者たちをとらえている。オルメカ文明はメソアメリカ最初の文明であり、一帯の発展に関する貴重な手がかりの宝庫だ。(PHOTOGRAPH BY RICHARD HEWITT STEWART, NATIONAL GEOGRAPHIC)

文=Erin Blakemore/訳=ルーバー荒井ハンナ

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