その後、200万年前から現在までかけて、後者の集団はさらに2つに分かれたとみられる。シロエリガラス(Corvus cryptoleucus)という種と、そのカリフォルニア系統だ。後者は新種というほどではないが、北米西部の大型カラスの中で、いわば独特の遺伝的特性を持つグループだ。
しかもDNA分析の結果、カリフォルニア系統は全北区型と交雑し、DNAを交換し合っていたことが判明した。その結果、系統樹の上で別々になっていた枝が、再び1つの種に戻り、今のワタリガラスに至っている。その比率は地域によって異なり、両者の混合は今も進行中らしい。
一方、米プリンストン大学の進化生物学者ブリジット・フォンホルト氏は、「両者が融合して、専門的に言って1つの種になっているとしても、変化は今も起こっている最中だという点に留意すべきです」と話す。フォンホルト氏は今回の研究には関わっていない。
米ニューヨーク州ロングアイランドにあるコールド・スプリング・ハーバー研究所の遺伝学者、アダム・シーペル氏は、この研究について、「魅力的な研究です。我々が生命の『樹』とイメージしてきたものは『樹木のようなもの』でしかないと、あらためて証明しています」と評価する。(参考記事:「「裏の仕事」は“系統樹ハンター”」)
シーペル氏は、ヒトとネアンデルタール人との間に起こった遺伝子の流動性を研究している。カーンズ氏らが今回明らかにしたワタリガラスでの遺伝子の流動性は、ヒトとネアンデルタール人の場合と似ているという。(参考記事:「ネアンデルタール人のゲノム解読、我々の病に影響」)
新たな技術から生まれる新たな疑問
米ワシントン大学でカラスの行動を研究する大学院生、ケイリー・スウィフト氏は、空き時間を使い、さまざまなカラスの違いをツイッターで一般の人たちに啓蒙している。だが彼女のような専門家でも、カリフォルニア系統と全北区型の違いは遺伝子の解析でしかわからない。そしてこの点が、今回の研究にも関わるより大きな問題を象徴している。(参考記事:「ハヤブサがタカよりインコに近かったことが示すもの」)
「『種とは何なのか』といった一見単純な疑問に答えるのが、いかに大変かを意味しています」とスウィフト氏。
彼女はさらに、「新しいゲノム解析ツールが自由に使えるようになり、かつてない深さでこうした問いを調べられるようになっています」と続けた。
「かつては別々だった2つの種が融合して1つになり、それまで異なっていたゲノムから1つのタペストリーが織り上がることがあります。複雑でありながら美しい、まさに自然のわざです」