人種の違いは、遺伝学的には大した差ではない

専門家に聞く「第4の人類がいた?」「犯罪者の遺伝子から何がわかる?」

2017.10.19
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【動画】ネアンデルタール人とは?
人間は本当に彼らとDNAを共有しているのだろうか。人類の進化の歴史に彼らはどのように関わっていたのだろうか。(解説は英語です)

――ご自分のDNAを調べてもらったそうですが、何か新しい発見がありましたか。また、DNA診断を商売にしている企業に対してなぜそこまで不信感を持っているのでしょうか。

 一部の企業は、遺伝子データに誤った解釈を与えて、「遺伝子占い」のようなことをやっています。私も自分の分析結果を受け取ったのですが、それによると、アポリポ蛋白E遺伝子の変異型を持っているということで、アルツハイマー病のハイリスクグループに入れられていました。

 この結果を見て、その意味するところを理解せず、不安に襲われる人もいるでしょう。けれども、私は全く心配していません。リスクといっても、私のことを具体的に指しているわけではありません。その遺伝子を持った人々のなかで何割が発症するかを示しているだけです。

 遺伝子は、種としての集団や私たちの歴史について多くを教えてくれますが、個人についてはまだそれほどわかっていません。私がこの本を書いたのは、そのためでもあります。遺伝子に対する人々の理解を広げ、遺伝子は運命であるという文化的に刷り込まれた考え方を見直してほしいと思ったのです。

――2012年に米国の小学校で銃乱射事件を起こしたアダム・ランザのDNAを分析するよう求める声があったそうです。そこから、犯罪と遺伝子の関わりについて探ろうとしたわけですが、これはなぜ危険なことだと思うのでしょうか。

 複雑な問題にすぐに答えを出したがる私たちの傾向を象徴していると思ったからです。人は、比較的新しい科学である遺伝学に頼って、大量殺人など甚だ理解に苦しむ人間の行動に説明をつけようとします。けれども、アダム・ランザのように、20人もの小学生を射殺できるような人間には何か決定的な遺伝的要素があるはずだと考えるのは、大きな勘違いです。(参考記事:「DNAで真犯人を追う 科学捜査」

 人間の行動には遺伝子に基づくものもありますが、環境的要素もあるのです。よく「生まれか育ちか」と言われたものですが、「育ちがあって生まれがある」と言えるかもしれません。大量殺人犯はほとんど全員が、重大な精神的問題を抱えています。アダム・ランザはその点、典型的でした。

 精神的問題の一部には、遺伝的要素も確かにあります。しかし、この遺伝子がこの行動を引き起こすとはっきり言えるほど、私たちはまだこの手の行動に関する遺伝子をよく理解してはいないのです。同じ遺伝子を持った2人がいて、そのうちのひとりが総合失調症を発症し、もうひとりは発症しないということは十分にあり得ます。

 アダム・ランザのゲノムを解析したとしても、彼は人間のゲノムを持っているということがわかるだけでしょう。そして彼の持つ変異型は全て、大量殺人を犯さない人々の中にも見つけることが出来るはずです。なぜあれほど非道に子どもたちを殺害できたのかの説明を遺伝子に求めるなど、完全に的外れなことだと思います。

 全ての大量殺人事件に唯一共通していることは、銃を簡単に手に入れられる環境です。私にしてみれば、これ以上明快なことはないと思いますね。(参考記事:「天才を作り出す?「賢い遺伝子」の研究は是か非か」

――私たちは今も進化し続けているのでしょうか。そうだとすれば、5000年後に人類はどうなっているのでしょう。

 進化とは、簡単に言えば時間をかけて変化することです。私たちがこれまで通りの方法で子どもを産み続けるなら、今も進化していると言えます。ゲノムは人それぞれ違い、私たちの子どもたちのゲノムは、私たちのものとは違います。その意味では、私たちは変化しています。

 けれど、その根本にある疑問は、今でも自然選択によって進化を続けているのかという点です。進化はとてもゆっくり進むということもあって、それに答えるのははるかに難しいです。異なる環境圧力への適応は、多くの世代を経て、気が遠くなるような長い時間をかけて起こるものです。(参考記事:「生命を自在に変えるDNA革命」

文=Simon Worrall/訳=ルーバー荒井ハンナ

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