かつての海は、今よりずっと健やかで、多くの魚や生き物たちであふれていたのだろう。現在の海を見て、私たちはついそんな想像をめぐらせてしまう。
だが、ここカボ・プルモの海は違う。メキシコのバハカリフォルニア半島にあるこの海は、世界で最も成功した海洋保護区とされている。私はここで、「海を守れば、いかに素晴らしい信じがたいことが起きるのか」を証明する、貴重な機会を得た。適切なルールを設け、復元のための適切な努力をしたなら、海は驚くほどの回復力を見せてくれる。
写真家として、私が今回チャレンジしたのは、恐ろしいほどの魚の豊富さと、ほかの海の50年前、100年前を想像させる光景を描き出すことだった。(参考記事:「原始の海、はるかなる南ライン諸島」)
撮影をしているときに出会ったこのギンガメアジの群れには、まったく度肝を抜かれた。最初は海底に張り付いているようだった無数の魚の群れが、30メートル上にある海面の方までぐっと伸び上がった。たとえるなら、米国の大草原に発生する大きな竜巻だ。
海面から見ると、魚群は変幻自在の大きな塊に見えるが、私が海に入って1~2メートル潜ると、その一番上の層が大きく口を開いた。さらに深くへ潜っていくと、魚のトンネルは私の後ろで閉じていった。
そこには脈を打つ、竜巻のエネルギーのようなものがある。しかし、静止画像ではそれをうまくとらえることができなかったため、私は最後のダイブでカメラを自分に向け、動画を撮影してみた。
それはまるで時を遡ったかのような、原初的な体験だった。人間がこれまで海に及ぼしてきた負の影響は消え去っていた。かつてはどこの海も、こんな風だったに違いない。あまりに密度の濃い魚の群れに、太陽の光も遮られてしまうほどだった。(参考記事:「眼前で激写! 人懐こいクジラのすむ海、メキシコ」)