インドにおける農場主の自殺率について数多くの論文を執筆している心理学教授のプラカシュ・ベヘレ氏はナショナル ジオグラフィックの取材に対し、カールトン氏の示す根拠に同意した。気温の上昇は自殺率上昇の要因になりうるという。そして、インドでは心のケアのためのインフラを拡大させる必要があると指摘する。ベヘレ氏は、農作物の収穫が減少してひどい打撃を受けた地域で現地調査を行ったことがあり、アルコール中毒やうつ病の発症率も高いことを明らかにした。(参考記事:「写真ルポ:高温地域で新要因による腎臓病が増加」

 タミル・ナードゥの農場主のデモに関して聞かれると、借金を免除しても一時的に状況を楽にするだけで、より深刻で根本的な問題は解決できないと氏は強く主張した。

「人々が必要としている精神的なケアが行き届いていないのです」(参考記事:「失明治療 見えてきた光」

 2014年まで、インドでは自殺が犯罪行為とされていたため、歴史的に自殺の数が実際よりも低く報告されていた可能性がある。2017年初めに、全国で精神医療サービスを拡充させる画期的法案が議会を通過した。しかし、南部の干ばつはさらに悪化し、数千人の農民や労働者が悪質な金融業者から借金せざるを得なくなった。(参考記事:「女性の頭から生きたゴキブリを摘出、インド」

 気温の上昇は今後も続くことが予想され、精神医療の施設を増やすこと以外にも、政治的なセーフティネットや技術革新、例えばより効率的なかんがい施設を整備するなどの対策をとることができる、とカールトン氏はいう。

インドだけの問題ではない

 環境が悪化するのと同調して農場主の自殺率が上昇するという現象は、インド以外でも起こっている。オーストラリアでも、干ばつと農場主の自殺との間に強い相関関係があることが報告されている。米国では、大恐慌の後でやはり農場主の自殺が増加したが、政府の農業保険制度によって事態は改善した。(参考記事:「渇水大陸オーストラリアの苦悩」

 2009年にインドの精神医学誌「Indian Journal of Psychiatry」に発表された調査によると、環境の影響によって精神疾患にかかるリスクが農場主の場合は特に高いという。気象パターンの予測が困難なことと、時に激しく変動する市場が、農家に過度なストレスをかけている。

 カールトン氏は今後、具体的な政策や経済規制、プログラムの実施が、農場主が直面する問題の改善にどう役立つかを調べたいとしている。(参考記事:「地球温暖化、農家の移住を加速」

「こうした具体的な政策が果たして効果的なのかを調べるためのデータがまだありません」。これまで、カールトン氏は気候変動がどのように人々の争いや個人の暮らしに影響を与えるかといった研究を行ってきた。

「現在、私たちの世代で既に(気候変動の)様々な影響が出始めているのです」

 カールトン氏とベヘレ氏は、インドの自殺問題に多角的に取り組むことは可能であると前向きな見方を示している。(参考記事:「家族農家が温暖化時代の農業のカギを握る」

文=Sarah Gibbens/訳=ルーバー荒井ハンナ