不気味な生き物を作り出すことにかけては、植物の世界はホラー作家に勝るとも劣らない。
たとえば薄暗い森のなかで、たくさんの目玉に覆われた茎が1本、地面から生えているのを見つけたところを想像してみてほしい。あるいは、悪臭を放つ“タコ”が、粘液に覆われた触手をこちらに伸ばしてきたとしたら……。
人間を追い回すこともできないキノコや植物の仲間を、私たちはなぜ不気味に感じるのだろうか。キノコや植物のなかには強力な毒を持っているものもあり、それに対して嫌悪感を覚えるのは「こちらを傷つけるものを避けなければ、と強く感じるからです」と、米コーネル大学でキノコを研究するキャシー・ホッジ氏は話す。
一方で、毒はなくても、単に気持ちの悪い見た目(あるいは臭い)を持つように進化することで生き残りを図るものもいる。そうした不気味な植物やキノコの中から特に厳選したものを紹介する。(参考記事:「人、指、鳥の巣…奇妙な“そっくりキノコ”たち」)
タコスッポンタケ
英語で「悪魔の指」とも呼ばれるタコスッポンタケ(学名:Clathrus archeri)。革のような薄い殻に包まれた「卵」を破って伸びてくる真っ赤な触手は、緑がかった黒い粘液のまだら模様に覆われている。
このキノコは、地下で木の一部から栄養を取りながら一生の大半を過ごす。繁殖の時期になると、人間の指に似た形に成長し、腐った肉のような臭いを放つ粘液を分泌しはじめる。この粘液には、胞子がたっぷりと含まれている。
ホッジ氏は説明する。「タコスッポンタケの狙いはハエをおびき寄せることです。ハエに粘液のなかを歩き回って、胞子を拡散してもらいたいのです」。そのハエが運良くどこかの木の棒にとまれば、胞子はそこで栄養をもらいながら、また次世代の不気味なキノコとして育つというわけだ。(参考記事:「発光するキノコ、2010年の新種」)
ブリーディング・トゥース
英語でブリーディング・トゥース(流血する歯の意、学名:Hydnellum peckii)と呼ばれるこのキノコには、ストロベリー・アンド・クリームという、かわいらしい通称もある。毒を持たないとはいえ、これを山盛り食べようという人はいないだろう。いくらおいしそうな名前で呼ばれていようとも、このキノコはひどく苦いのだ。
大きな臼歯から血がにじんでいるような姿に見えることはあるものの、ブリーディング・トゥースという名称の由来は、見た目ではなく胞子の作り方にある。一般的なキノコは傘の下にあるひだで胞子を作るが、ブリーディング・トゥースは傘の下に小さな歯のような形の構造物が並んでいて、そこで胞子を作る。
ブリーディング・トゥースは、樹液のような赤い液体を排出する。これは溢液(いつえき)と呼ばれる現象で、湿った土から水分を余分に吸い上げたときに起こるものだ。赤い液体には抗菌性の化合物が含まれているが、それが何の役に立っているのかはわかっていない。(参考記事:「南極を流れる不気味な「血の滝」、謎を解明」)