熱帯のヒカリボヤ、北太平洋で大発生、前代未聞

アラスカのサケ漁が不可能に、原因も影響も不明、科学者は困惑

2017.06.16
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生態は謎だらけ

 通常、ヒカリボヤが見られることは非常にまれで、海洋の現況について年1回の報告書をまとめるカナダの研究者は名前を聞いたことすらなかった。西海岸の科学者は、学術論文にわずかな情報を見出せた程度だった。大半の科学者は生態系において重大な意味があるのではと疑っているが、その有無は明らかではない。どんな影響があり得るか、予測は不可能だ。

 学名の pyrosome が「火の体」を意味するヒカリボヤ属は、普通はコートジボワールや地中海、オーストラリアやフロリダ沖といった海域で見つかる。大きいものは長さ9メートルを超え、チベットの長いホルンさながらの不気味な姿になる。小さいものは繊毛(せんもう)という微細な毛を動かして、海中を上下している。キュウリのように硬く、細かい突起で覆われているが、触られるとゼラチン質の粘液をしみ出させる。

【動画】米カリフォルニア州モントレー湾のヒカリボヤ

 2014年と2015年に、暖かい水塊が一時的に太平洋東部に押し寄せ、あらゆる種類の生きものが、本来の生息域ではない場所に現れた。暖かい海域のサメやマグロがアラスカで水揚げされた。熱帯のウミヘビがカリフォルニア沖に姿を見せた。期間も毒性も記録上最長、最大となる藻類の大発生が起こり、カニ、カタクチイワシ、アザラシ、アシカを苦しめた。そして、数匹のヒカリボヤが浜に打ち上げられるようになった。(参考記事:「太平洋「死の暖水塊」の原因が明らかに」

ヒカリボヤは自ら発光し、「火の体」とも呼ばれる。(PHOTOGRAPH BY STEVE MOREY)
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 水温が下がり始めると、海の生きものたちは元の状態に戻っていくように見えた。だがしかし、なぜかヒカリボヤが増え始めた。今年の春までには、ヒカリボヤは海面から100メート前後の深さまでの大部分を支配するようになっており、特にアラスカ沖合で顕著だ。

「中深海のキングサーモン(マスノスケ)を獲るのに、トロール漁の漁師は釣り針が50個ついた仕掛けを使っていました。それを引き上げると、ほとんど全ての針にヒカリボヤが付いていたのです」と話すのは、アラスカ州漁業狩猟局のレオン・ショール氏だ。「事実上、漁が不可能なところまで来ています」

 ショール氏によると、ある漁師がヒカリボヤをいくつかバケツに入れてみたが、結局は海に投げ捨てた。後になって初めて、バケツが光っていることに気付いたという。

ヒカリボヤの大量発生に、科学者たちも頭を悩ませている。(PHOTOGRAPH BY STEVE MOREY)
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 同局のアーロン・ボールドウィン氏も、「水中はヒカリボヤで埋め尽くされています」と話す。

 ちょうど2週間前には調査のためトロール網船が出され、オレゴン州の数百カイリ沖で、科学者たちは万単位のヒカリボヤを確認した。

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