先ごろ行われた全米規模の調査で、米国南西部で春の到来が20日も早まっていることが分かった。その北限は、写真の木が花を付けているニューヨーク植物園にまで達する。(PHOTOGRAPH BY DIANE COOK & LEN JENSHEL, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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 最初に反応したのはおそらく低木だった。19世紀、米国アラスカ州の北極圏のハンノキや、花をつけるヤナギは、幼い子どもの背丈を超えることはなく、高さ90センチほどしかなかった。だが化石燃料の消費で気温が上がり、生育期間が長びくと、倍以上の高さになって生い茂った。今、その多くは180センチを超えている。

 低木が大きくなると、ヘラジカがやってきた。20世紀以前には、アラスカ北部を東西に走るブルックス山脈をめったに越えなかった動物だ。現在、細長い脚のシカは北極圏の川沿いを闊歩し、深い雪の上に顔を出す植物が生えている場所ならどこにでもいる。ヘラジカに続き、低木の新芽を食べるカンジキウサギも現れ始めた。(参考記事:「カンジキウサギ、温暖化に適応できる?」

 今では、ヘラジカとカンジキウサギはアラスカ北部で狩猟生活を営む先住民たちにとって欠かせない食料の1つとなっている。海氷が解けるせいで、アザラシなど昔ながらの獲物を追うのが難しくなっているからだ。(参考記事:「アラスカ先住民 解け出した氷の下の歴史」

 これは、人間が起こした気候変動が動植物の生活を変えている数千例の1つにすぎない。その過程で人間にも直に影響が現れており、中には甚大な打撃もある。温暖化に合わせ、生き物は場所、時、方法を変えて繁栄すべく、より高い場所、より高い緯度を目指す。おかげで、人が食べられる物は変わり、新たな病気の危険が生まれ、主力産業がひっくり返り、文化全体が海や陸をどう使うかも既に変化している。

「私たちが論じたのは、地球全体における種の分布についてです」と語るのは、グレタ・ペツル氏だ。同氏が主著者となって野生生物の移動の実態を検討した最新の研究結果がこのほど科学誌「サイエンス」に掲載された。

大西洋の水温が上がり、タイセイヨウサバの生息域が北に拡大。アイスランド沖で新たな漁業が生まれている。(PHOTOGRAPH BY JOAO PEDRO SILVA, GETTY)
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菌も害虫も拡大

 かなり劇的な異変も既に見られる。例えばマラリアは今、コロンビアやエチオピアの高山地帯でも発生している。温暖化で、標高の高い所にも蚊が生息できるようになったためだ。死に至ることもあるリーシュマニア症は、かつては主に熱帯の病気だったが、米テキサス州北部にも入り込んでいる。病気の原因となる寄生虫の宿主、サシチョウバエが北上しているからだ。

 作物につく害虫が生息範囲を広げていることで、農業も影響を受けている。南アフリカでは都市部の貧しい農家が作っているキャベツ、ケール、カリフラワーを荒らすコナガが数を増やしている。ラテンアメリカでは、コーヒーノキにつく菌や害虫が今までいなかった地域にも現れ、主力産業を脅かしている。フランスのオリーブ、ワイン用のブドウ、ラベンダーも同じ状況だ。米国では、侵略性が極めて高い雑草セイバンモロコシが、気候変動によって急速に広がり、マメ類、トウモロコシ、モロコシ属、大豆の収穫減につながっていると科学者たちは考えている。(参考記事:「中南米のコーヒー生産を脅かす「さび菌」と気候変動」

 一方、利益を得ている人もいる。タイセイヨウサバがこれまでよりもかなり北に広がったことで、かつては偶然かかるだけだったこの魚を、アイスランドの漁業者たちも獲れるようになり、ヨーロッパ同様に大きな収入源となっている。つまり、良くも悪くも(たいていは悪い方だが)、気候変動は既に重大な影響を野生生物に与えているということだ。(参考記事:「温暖化を味方にする動物は?」

「生物学的データは衝撃的で信じ難いほどですが、その筋書きをまだしっかり見極められません」とペツル氏は言う。「私たちが今経験している環境システムの変化は、世界がこの数千年に目撃してきた中でも最大規模です。それが人にも影響を及ぼしています」

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