【解説】温暖化で生物は?人はどうなる?最新報告

予想外の速度で生物の分布が変化、人間への影響も拡大、サイエンス誌

2017.05.02
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歌には登場しなかったクロテン

 フィンランドの団体「スノーチェンジ・コーポラティブ(Snowchange Cooperative)」と連携しているテロ・ムストネン氏は、シベリア先住民の指導者たちから奇妙な不平を聞いたことがある。「クロテンを歌った歌などない。クロテンにまつわる古い物語もない」というものだ。クロテンは森林地帯の動物で、北極ツンドラにはすんでいなかった。近年のクロテンの出現は、それ自体は大きな厄介事にはならないかもしれないが、象徴的だとムストネン氏は説明する。この地に何世紀も暮らしてきた先住民たちにとってさえ、どうとらえたらいいか迷うほど北極圏の景観が変貌しているということだ。スウェーデンには、長く「マツ林の湖」と呼ばれてきた湖があるが、今ではカバの木に囲まれている。(参考記事:「パミール伝統の暦、気候変動で役立たずに」

 変動によって大きな厄介事を引き起こしている例も、もちろんある。遊牧して暮らす先住民たちが魚を獲り、トナカイに水を飲ませていた湖が、永久凍土が解けたために消えつつある。スウェーデンでは、かつて飲み水に使われていた湖や小川が、今では下痢や腹痛などを引き起こす病原体で汚染されている。極北での病気の発生を追跡している科学者マリア・ファーバーグ氏は、ヤナギの北上について来たビーバーが病原体を持ち込んだのではないかと考えている。(参考記事:「【動画】シベリアにできた巨大な穴、止まらぬ拡大」

 昆虫が媒介し、野兎病とも呼ばれる「ツラレミア」の発生は、スウェーデン北部ではこの30年で10倍に増えたとファーバーグ氏は報告している。2017年3月には、ロシアのウラル山脈の西側にあるコミ共和国でマダニが媒介する脳炎が23倍に増えたと、別の研究チームが発表したばかりだ。それによると、気候変動によってマダニの生息範囲が広がっているという。(参考記事:「致死率30%の新興ウイルスが日本に定着している!」

 こうした異変により、特にシベリアやスカンジナビアの人々は不安にかられているとムストネン氏は言う。何人かの老人たちが彼にこう言ったそうだ。「自然はもう我々を信用していない」

文=Craig Welch/訳=高野夏美

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