幼虫は、顎でプラスチックをかみ砕いて破壊しているのだろうか。その可能性を排除するため、研究チームは死んだばかりの幼虫をつぶして液状化したものをプラスチックに塗布してみた。すると、幼虫の液もやはりプラスチックに穴を開けた。つまり、プラスチックを分解していたのは、幼虫か、あるいは幼虫にすみついている細菌が持っている酵素ということだ。
そしてこの酵素が、ポリエチレンをエチレングリコールに分解していることが突き止められた。エチレングリコールは、一般的に車のクーラントに利用される化学物質である。ベルトチーニ氏は、今後の研究でポリエチレンを分解する酵素を特定したいと考えている。
虫に食べさせるのはいかがなものか
プラスチックを生分解する方法を科学者たちは数十年も探してきたと語るのは、ドイツにあるグライフスバルト大学の生化学者ウブ・ボーンシャイアー氏だ。
「プラスチックによる環境汚染は、深刻な世界的問題です」(参考記事:「海洋ゴミ、最も効果的な対策は?」)
2014年、スタンフォード大学のウー氏とその研究チームは、別のガの幼虫が持つ腸内細菌がポリエチレンを分解することを発見したが、その際に別の副産物も発生していた。2016年の研究では、ある種の細菌の持つ酵素がペットボトルなどに使用されるポリエチレンテレフタレートを分解することが分かった。
「他にも、プラスチックを分解できる虫はたくさんいるかもしれません」と、ウー氏は語る。
米ウッズホール海洋研究所の海洋生物学者トレイシー・ミンサー氏は、プラスチックごみの問題を解決するためには、生産量を減らし、リサイクルの量を増やすことに重点を置くべきだとしている。(参考記事:「都会の虫、廃棄食物の処理に貢献」)
「ポリエチレンは高品質な樹脂で、より価値の高いさまざまな製品に“アップサイクル”できます。1トンにつき500ドルで売れることもあります。今回の研究は興味深い話で、学術的な研究としては大変すばらしいと思いますが、私としてはポリエチレンの処分法として望ましい解決策とは思いません。これではお金を捨てるようなものです」(参考記事:「ポリエチレンに“ひねり”を加えて人工筋肉に」)