ホシバナモグラ(Condylura cristata)は、世界で最も奇妙な姿をした動物と言っても過言ではないだろう。間近で観察すると、鼻先に小さなタコがくっついているようにも見える。それも2つ。
北米原産のこの動物は目がほとんど見えないが、動きは驚くほど素早い。彼らは早食い選手権があったら優勝間違いなしの早食い王で、昆虫やミミズをわずか0.25秒で飲み込んでしまう。
また、湿った土の中を掘り進んでいる最中は、頭部をせわしなく動かし続ける。闇に包まれた地下世界では視覚は役に立たないため、彼らは星型をした鼻で周囲の土を猛スピードで連打しながら獲物を探す。その速さはなんと1秒間に10〜12回に及ぶ。
一見したところ、でたらめに動かしているようにも見えるが、これにはきちんと意味がある。土に1度触れるたびに、10万本の神経線維が脳に情報を伝えているのだ。これは人間の手にある神経線維の5倍以上であり、それが人の指先よりも小さな鼻にぎっしりと詰まっている。
彼らはまた、水中でも匂いを嗅ぐことができる2種類の動物のうちの1つだ。鼻から気泡を吐き出し、それを再び吸い込むことによって匂いを感じ取る。
ホシバナモグラの驚くべき特徴はそれだけではない。そう語るのは、米バンダービルト大学の神経科学者、ケネス・カタニア氏だ。
「ホシバナモグラについて話すとき、私は"驚き"という言葉を何度も口にしてしまうのですが、それはこの動物が本当に驚きに満ちているからです」
カタニア氏は4月27日、シカゴで行われる実験生物学の学会において30年間にわたる研究の成果を発表する予定だ。
鼻の形に脳が対応している
生物学者の多くが入手しやすい動物を研究対象とするなか、「変わり種」を研究するカタニア氏は、極端な能力を持つ生物を研究すれば、他の生物の体の仕組みが理解できるという。(参考記事:「【動画】馬も倒す?デンキウナギの「水上攻撃」」)
「進化はさまざまな方法で問題を解決してきました。その多様性から学べることはたくさんあります」(参考記事:「モグラの鼻、においを立体的に把握」)
たとえば、ホシバナモグラの敏感な鼻の触覚の研究からは、触覚が分子レベルでどのように働くかを探る手がかりが見つかっている。(参考記事:「知られざるモグラの不思議」)
カタニア氏によると、ホシバナモグラの脳には、奇妙な鼻の形状にきれいに呼応して11に分かれた領域があるという。星型の鼻を土に押しあてるたびに、モグラは自分の周囲の状況を星型の景色として読み取り、そのイメージが脳内でジグソーパズルのように組み合わされるのだ。