アートが支える復興
バシリチェさんは復興に向かう町で、小規模な作品の制作と販売を開始した。1999年に夫が他界すると、この先自分と息子のファブリチェが生きていくためには、もっと視野を広げなければならないと彼女は考えた。彼女は多くの人々をまとめる力を持っていると、現在は実業家となった息子のファブリチェさんは語る。
「2000年に、母は自分の周囲を見回して、途方に暮れている女性が自分以外にもたくさんいることに気づきました。コミュニティは崩壊しており、誰もが自身の生活手段を見つけようと必死になっていました。母には、人々が団結すれば、より強い力を発揮できることがわかっていました」(参考記事:「残された妻たちの苦しみ」)
そこでバシリチェさんは、村の寡婦たちを自分の工房に招き、イミゴンゴの作り方を教えた。じきに彼らの手で多くの作品が作られ、地域外でも販売されるようになっていった。
カキラ・イミゴンゴ協同組合は現在、15名の女性を雇用している。そのほとんどが虐殺で寡婦となった女性たちだ。彼女たちが作る作品は、小さな正方形の板に描くものから、注文を受けて作る大きな壁画まで多岐にわたる。作品は通常、共同作業によって制作される。ひとりが四角い板に下絵のパターンを描き、その線を指にたっぷりとすくった牛の糞でなぞっていく。糞が乾いたら今度は別の女性が、赤粘土、黒灰、白土などの天然素材から作った顔料で着彩をする。
その後はヤスリで磨きをかけ、さらに数回着色を繰り返して仕上げられる。
カキラの工房で生み出される作品は国際的な人気を博し、フランスのパリに展示されているほか、2018年にはニューヨークでの展覧会が予定されている。カキラ協同組合はウェブサイトを持たないが、数カ国語に堪能なファブリチェさんが、母親に代わって国外からの注文を受け付けている。
工房が終業時間を迎えると、私はバシリチェさんとファブリチェさんを夕食に誘った。夕暮れ時のニャカラムビ村のドライブは、うっとりするほどのどかだ。くねくねと続く緑の山道は、たくさんの人であふれている。沈む夕日に照らされて黄金に輝く大勢の人々が、笑顔を交わし、大声で笑い、手をつなぎ、歩き、自転車をこいでいる。その様子は、まるで大規模なイベントが終わった直後のようだ。
「この人たちはどこへ行くのでしょうか」と私は尋ねた。
ファブリチェさんがニッコリと笑って言う。「ただ外に出るのがうれしいのだと思います。きっと幸せを感じているのでしょう。私たちは、ルワンダに住む多様な人々が、みな自分のなりたい存在でいられる時代に生きています。私は今ここに暮らし、この町の一員でいられることが幸せです」
「あなたのお母さんもずっとここに住むつもりなのですか」と私は聞く。「お母さんは人気者になっているし、そのうち牛の糞を使い切ってしまうかもしれませんよ」
ファブリチェさんは笑い声を上げ、このジョークを通訳して母親に伝える。バシリチェさんは笑顔を作ると、ルンディ語で穏やかに答えた。
「母はこう言っています。ルワンダの人々は農民ですし、田舎では誰もが牛を飼っています。牛がいるところには、必ず糞があります」