ある朝、アルゼンチンのサンタフェに住むルハン・エロレスさんは、自宅の庭で奇妙な生きものを見つけた。長さは10センチほど。両端に頭があるヘビのように見えて、一方の端の目は瞬きをした。
エロレスさんはフェイスブックに動画をアップして、正体を尋ねたところ、たくさんのコメントが寄せられた。(参考記事:「ぼくが出会ったなかで一番スゴイ擬態昆虫」)
この生きものをひっくり返してみると、小さな脚が並んでいた。そのため、専門家はスズメガの幼虫だと考えている。ベニスズメ(Deilephila elpenor)の幼虫ではないかというコメントや報道もあったが、ベニスズメはヨーロッパにしかおらず、厳密な種は謎のままだ。(参考記事:「【動画】ヘビ?クモ?な「動く模様」に学者も困惑」)
この生きものはベニスズメではないようだが、スズメガの幼虫には、捕食者を警戒させて身を守るためにヘビに擬態するものが多い。
米国アリゾナ大学の昆虫学者ケイティ・プルディック氏は、「イモムシは自然のホットドッグのようなもので、たくさんの動物に絶好の軽食だと思われています」と話す。
イモムシが成長してガやチョウになる時期が近づくと、変態によって体の構造が大きく変わる。その過程で体の脂肪が増えるため、さらにおいしい食事になる。
そこで、イモムシは捕食されることを防ぐためにさまざまな擬態を行うわけだ。たとえば、オオタスキアゲハの幼虫は、においまで出して鳥の糞に擬態する。(参考記事:「うんちのふりをするイモムシ 効果のほどは?」)
スズメガの幼虫がヘビに擬態するのは、ヘビに似たものを避ける捕食者の習性を利用したものだ。
プルディック氏は、たとえば捕食者が鳥の場合として説明をした。「おいしそうなホットドッグを捕まえたと思っても、イモムシが向きを変えて頭を膨らませれば、本物のヘビそっくりに見えます。すると、獲物を落として逃げ出すことが多いのです」(参考記事:「葉脈から朽ち加減まで再現した超擬態昆虫」)
しかし、スズメガの幼虫は瞬きまでする本物そっくりの目をどうやって得たのだろうか?
英国の学術誌「Journal of Natural History」に掲載された論文によると、尾角と呼ばれる器官が「すばやく動かすことができる目玉模様になった」という。(参考記事:「コノハチョウ擬態の謎、解明か」)
実はヘビは瞬きをしない。だが、この動作によってイモムシは「より一般的な」目に擬態することができるという。目玉模様とふくらんだ頭によって、スズメガの幼虫は何とも不気味に見える。エロレスさんの庭にいたイモムシがまさにそうだ。(参考記事:「エイリアンのようなクモ発見、枯れ葉に擬態」)
エロレスさんは英紙「デイリー・メール」の取材に対し、「あんな生きものは見たことがありません。変わった目のヘビだと思いました」と述べている。毒ヘビではないかとも考えたそうだが、そう思わせたならイモムシにとって願ったりかなったりだろう。
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