エジプトの砂漠で太古のナマズの化石が発見され、新種と判明した。ナマズは魚の中でもわかりやすい姿かたちだが、新種の化石はその進化の歴史に新たなヒントを与えてくれる。
今回のナマズ化石は、カイロの南西ワディ・アル=ヒタンという砂漠地帯で発掘され、Qarmoutus hitanensisという学名が与えられた。およそ3700万年前に生息したと見られている。
体長は約2メートルで、ナマズとしては最大の部類。現代のナマズでいえば、東南アジアに生息するメコンオオナマズや、ヨーロッパのヨーロッパオオナマズに匹敵する(ちなみに、極小の部類に入るカンディルという種は、寄生虫のように、人間の体のあまり考えたくない穴から中へ入り込むという話がある)。(参考記事:「こんな生きもの、絶対に出会いたくないっ! カンディル」)
だが、現代の基準で見れば大型でも、それが生きていた新生代古第三紀に、この谷に生息していた他の巨大生物と比較すると、かなりの小物と言っていい。
ワディ・アル=ヒタンとは、「クジラの谷」という意味である。今でこそ乾いた砂原が広がっているが、ここはかつて大海原だった。風化によって形作られた砂岩の丘や崖からは、先史時代のクジラの化石が数多く発見されている。(参考記事:特集「エジプト クジラが眠る谷」)
その多くは、かつて陸を歩行していたクジラの祖先が足を失って海に入って行こうとしていた頃のものだ。他にも、この場所ではサメやワニ、エイ、カメといった海洋生物の化石も見つかっている。
けれども、同じ堆積層から硬骨魚が発見されたのは今回が初めてである。このことから、肉がたっぷりと付いたナマズQarmoutusは、歯を持った捕食動物のエサになっていたのではないかと考えられる。
この発見は、3月1日付の科学誌「PLOS ONE」に発表された。論文の筆頭著者であるサナア・エル=サイエド氏は、「当時この辺りの海に生息していたクジラの仲間バシロサウルスやドルドンは、ナマズを食べていたのかもしれません」と書いている。(参考記事:「初期のクジラ、ドルドンの骨格を発掘」)
今回の発見により、ワディ・アル=ヒタンの海洋生物に新たな種が加わっただけでなく、Qarmoutusは全く新しい属と種を構成し、ナマズの系統樹のなかでもかなり最初期に位置していることもわかった。
「ナマズの中でも大変古く、それでいて保存状態が良い。現生種と解剖学的にほとんど変わることなく、生きているナマズと直接比較できるほどです」と、米ドレクセル大学自然科学アカデミーのジョン・ランドバーグ氏はいう。