南アフリカ共和国のクルーガー国立公園で、痛い目に遭ったヒョウが動画に撮影された。ヤマアラシは、ヒョウの予想よりもかなり手強い相手だったようだ。
2016年12月のこと。2匹のヤマアラシが、道端にいる何ものかから逃れようと走っていた。どうやら追いかけているのは、1頭のヒョウのようだ。やがてヤマアラシのうち1匹が、くるりと体を回転させて後ろ向きに突進、鋭いトゲに覆われたお尻の方からヒョウに体当たりを仕掛けた。
ヤマアラシは仲間から離れる方向へ駆け出し、ヒョウがその後を追う――緊迫したにらみ合いが続くかと思われたそのとき、ヤマアラシがふいに地面に開いていた人工の穴に逃げ込んだことで、戦いはおひらきとなった。
撮影者によると、ヒョウはヤマアラシの脚に深手を負わせていたが、その後はすぐにほかの獲物を求めて去っていったそうだ。(参考記事:「【動画】ヘラジカ、住宅地で迫力のガチンコ対決」)
命を守るトゲ
ヤマアラシが大型のネコ科動物から身を守る様子がカメラにとらえられたのは、これが初めてではない。2014年末には、南アフリカのロンドロジ動物保護区のヤマアラシが、17頭のライオンを相手に見事生き延びた動画が大きな話題になった。
「ライオンがヤマアラシと鉢合わせをして、ヤマアラシがあのように身を守るのは、ごく一般的に見られる光景です」。米オレゴン動物園の飼育員、クリスティーナ・スミス氏は、以前の取材にそう答えている。
「ライオンはときにヤマアラシを食べることもあるでしょうが、特に好物だとか、わざわざ時間をかけて狩りたい獲物だということはありません。強力なトゲのおかげで、ヤマアラシには捕食者があまりいないのです」
苦手なヤマアラシを狙った理由は?
そう考えると、ヒョウがヤマアラシを狙うという選択は、一見、本能に反しているようにも思える。しかし、動画のヒョウの行動は、あるいは戦略的なものだった可能性もある。
2014年以降、クルーガー国立公園では深刻な干ばつが続いており、カバやアフリカスイギュウといった草食動物の数が減少している。雨が少なく食料が減っているという状況では、ヤマアラシもまた、体が弱っていてもおかしくない。(参考記事:「極めて希少な例、カバを襲うライオン」)
つまりヒョウは、脚が速くて干ばつの影響も大きくないインパラなどを狙うよりも、体が弱っているヤマアラシの方が捕まえやすいと考えたのではないだろうか。ところがヤマアラシの恐ろしいトゲの前に、完敗を喫したというわけだ。
「肉食動物は、干ばつによって利益を得ます。腐肉が手に入りやすいほか、体の弱っている動物を見つけたり、捕食したりしやすくなるからです」。南アフリカ国立公園局の科学責任者、イザク・スミット氏は、2016年10月の取材でそう述べている。
「我々はマイナスの影響を受ける動物に注目しがちですが、干ばつのときにも勝者と敗者がいるというのは重要な視点です」(参考記事:「衝撃、ヒョウの共食いを撮影、南アフリカ」)