頭の赤いキツツキに、小柄な恐竜のベロキラプトルをかけ合わせた動物を思い浮かべれば、アンキオルニスの姿としては間違っていない。それが、この太古の動物の標本9点を精査した科学者たちの結論だ。
アンキオルニスは始祖鳥以前の後期ジュラ紀に生きていた高さ30センチほどの恐竜だ。これまでは見えなかった軟組織に強力なレーザー光を当てることで、以前よりはるかに詳しく解き明かされた実際の様子が2月28日付のオンライン科学誌「Nature Communications」に発表された。この発見により、1億6000万年前の昔から、鳥に非常に近い特徴をさまざまな恐竜が備えていた証拠がさらに増えることになった。(参考記事:「驚きの恐竜展を開催、もはや鳥展、米NYで」)
今回の研究結果によると、アンキオルニスは驚くほど鳥に近い。両脚の形は鶏ももの下部のようだし、長い前腕は翼膜と呼ばれる皮膚の層でつながっている。尾は細く、うろこに覆われた足の裏はニワトリのそれを思わせる。
論文の共著者で香港大学の古生物学者、マイケル・ピットマン氏は、「アンキオルニスはもともと鳥として報告されていました」と話す。「ですがそれ以来、原始的な鳥類とも、鳥類に近いトロオドン科の恐竜とも言われ、それぞれの説を支える証拠が異なる研究者たちから出されています」(参考記事:「動物大図鑑「トロオドン・フォルモスス」」)
「アンキオルニスは、原鳥類の基礎的な種の1つと呼ぶのが最も適切です。同じ恐竜から枝分かれした、鳥類とそれに近い恐竜を含むグループの一員です」とピットマン氏。(参考記事:「“最初の鳥”に新たな候補」)
太古の化石に肉付けする
何百万年ものはるか昔に絶滅した生物を研究する最大の困難の1つは、そうした生物を見つけたときにはもう、標本になるような物がそれほど残っていないという点だ。古生物学者が研究する骨が完全な形であることはほとんどないし、保存状態の良い標本でさえ、生活の状況という大事な背景を欠くことがある。
そんな中、小ぶりな恐竜アンキオルニスは、知名度こそティラノサウルスやステゴサウルス、トリケラトプスに劣るものの、他のどんな恐竜よりも本当の姿に近づけるかもしれない。
アンキオルニスの化石は、2009年に中国東北部で初めて発見された。以後、200以上の標本が見つかったおかげで、今ではこの属が4つの翼と山ほどの羽毛を備えていたことが分かっている。2010年には画期的な研究が行われ、羽毛の中にあった色素を含むメラノソームから、アンキオルニスの体は黒と灰色で羽毛の一部が白く、赤いとさかがあったと発表された。(参考記事:「羽毛恐竜の全身色:アンキオルニス」)
今回の研究でピットマン氏らのチームは、アンキオルニスについてのさらに詳しい情報を、見えない組織から引き出した。内臓、皮膚、筋肉といった軟組織はたいてい時とともに失われる。だが時折、こうした組織が化石の中にまだ残っていることがある。肉眼では見えないだけなのだ。(参考記事:「世界初、恐竜のしっぽが琥珀の中に見つかる」)
研究チームが活用したのはレーザー励起蛍光法という技術だ。強力なレーザー光を暗室内で化石標本に照射し、どの波長が反射するかを記録する。これにより、他の条件下では見ることのできない化石の特徴や詳細を明らかにできる。
レーザー励起蛍光法は「最近、次々に登場している技術の1つで、絶滅した系統上での軟組織の進化を解明するのに役立っています」と話すのは、英ロンドン大学王立獣医カレッジの進化バイオメカニクス教授であるジョン・ハッチンソン氏だ。(参考記事:「貴重な恐竜化石をぶった切る」)
恐竜の動きを研究する者として、氏は今回の研究結果がもたらした「美しい解剖学的構造」と「驚くほどの保存状態」に深く感謝すると話した。
「今回の知見は主として、体形に関する我々の理解をより具体的に深め、これまでの結論を強化するものですが、特に腕の形状に関する理解が精緻になったと思います」と、ハッチンソン氏は評価している。
しかし氏は、より時代を下った鳥類やワニ類の化石をこのレーザー技術で調べた結果にも興味があるという。そうすれば、数千万年にわたる圧力で2次元に押し固められた標本から、この技術で3次元の形状が本当に明らかになるかを検証できるからだ。
ピットマン氏は、レーザー光に反応する適切な鉱物学的特徴がどの化石にもあるわけではないと認めつつ、この画像化技術によってもっと多くの事実が判明しそうな化石は大量にあると言う。
「私たちは、どんな古生物学者でもこの方法を道具箱の最上段に入れておくべきだと考えています。化石から得られる解剖学的情報がいとも簡単に増え、化石を傷つけることもないからです」とピットマン氏。
アンキオルニスは飛べたのか?
大きさ、体形、色といった疑問は常に関心を引くが、初めて見つかったときから、この恐竜にはもう1つの謎が付きまとっている。この「鳥みたいな恐竜」は、羽毛の生えた翼を飛ぶことに使えたのかという問いだ。(参考記事:「羽はどうやってできたのか?」)
ここでも、ピットマン氏らの研究チームによる知見が参考になるかもしれない。上腕と前腕をつなぐ皮膚、すなわち翼膜は揚力を生むのに役立ち、滑空または飛翔に必要な適応だと一般に考えられている。絶滅した翼竜や、現生のコウモリ、鳥類にもこの構造がある。
だがピットマン氏らは、単に翼膜があるからと言って空を飛んだことにはならないと注意を促す。ニュージーランドクイナのように、翼膜があっても全く飛ばない鳥もいるからだ。
「私たちの研究が強調しているのは」とピットマン氏は続けた。「鳥に近い恐竜たちが備えていた解剖学的構造と能力の多様さです。その結果として、実際に滑空や飛翔をする鳥が初めて登場したのです」