驚くべき発見だ。地球上でもっとも人里離れた場所といえる太平洋のマリアナ海溝で、高濃度に汚染された中国の河川以上に汚染物質が蓄積されているという報告がもたらされた。
オンライン学術誌「ネイチャー・エコロジー&エボリューション」に掲載された論文によると、ロボット潜水艇を使って深さ約7800~1万メートルで捕獲した甲殻類に含まれる汚染物質の量は、中国でもっとも汚染された川のひとつとされる遼河(りょうが)から水を引いた水田のカニの50倍もの量だったという。(参考記事:「深海への挑戦」)
Scary. Scientists discover “extraordinary” levels of toxic #pollution in 10km deep Mariana trench. https://t.co/mrfn7kTAQb pic.twitter.com/wA6gocLG8t
— Greenpeace (@Greenpeace) 2017年2月13日
検出された化学物質には、1930年代から70年代の間に生産された2種類の残留性化学物質(POP)、PCB(ポリ塩化ビフェニル)とPBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)が含まれていた。研究によると、これらの化学物質は、この期間に地球全体で約130万トン生産されている。そして、事故や廃棄、埋め立て地からの流出、不完全な焼却などのため、その一部は環境に放出されている。POPは簡単には分解されないため、長い間環境にとどまることになる。(参考記事:「環境汚染でホッキョクグマのペニス折れやすく」)
研究を率いた英国ニューカッスル大学のアラン・ジェイミソン氏は、英国紙「ガーディアン」に次のように語っている。「深海は人が寄りつかない原始の世界で、人間の影響が及ばない所だと考えがちです。しかし、悲しいことに、今回の研究によって、そのような考えは現実からかけ離れているものであることがわかりました。このようなとんでもないレベルの汚染物質が検出されたという事実から、人間が地球に与える長期的、破壊的な影響を痛感せざるをえません」
海溝に到達したPOPの源は、太平洋北西部の産業地帯である可能性が高い。近くの「太平洋ゴミベルト」のPOPを含んだプラスチックが小片になって海底に沈み、海溝に蓄積されると考えられる。海溝に流れ込んでくる水は多くはないため、化学物質は分散することなく存在し続けるという。 (参考記事:「海ゴミの出所を特定、1位は中国」)
POPは海溝に急速にたまった可能性もある。科学者たちは、2011年の福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性物質の動きから、海面にある物質が約3~6カ月ほどで沈むことも突き止めた。(参考記事:「放射能汚染水、海洋生態系への影響は?」)
海溝やその周辺には、クサウオ、発光クラゲ、巨大アメーバなど、多くの生物が生息している。人が近寄れない深海に暮らす生物たちにも、化学物質の脅威が迫っている。(参考記事:「奇妙な光るクラゲ、世界最深のマリアナ海溝」)