世界で最も恐ろしいヘビの一種とされる、パフアダー(学名:Bitis arietans)の動画を見ていたザヴィエ・グラウダス氏は、ふいにあることに気づいて動画を巻き戻した。
「自分の見ているものが信じられませんでした」とグラウダス氏は言う。
パフアダーはアフリカに生息する毒ヘビの一種。動画のなかで、舌を伸ばし、先端をくるりと巻き上げていた。それはヘビがよくやる、あの周囲の状況を探るために舌をチロチロと出し入れする動作とは違っている。
まるで虫の動きをまねるように舌をわざとゆっくりと揺らし、近くにいるヒキガエルを誘っているように見えたのだ。
南アフリカ・ウィットウォーターズランド大学の博士研究員で、爬虫類を専門とするグラウダス氏には、これが普通のことではないとわかっていた。獲物を引き付けるのにこうした技を使う陸生のヘビ(land snake)は、これまで見つかっていなかったのだ。(参考記事:「【動画】死んだふりをするヘビ」)
グラウダス氏が、指導教官のグレアム・アレグザンダー氏と共にさらに多くの動画を見直したところ、9個体のパフアダーにおいて、同様の行動を11例観察することができた。その動画は、南アフリカの野生のパフアダーが狩りをしているところを撮影したものだった。
「陸生のヘビでこうした行動が記録されたのは初めてです。実にすばらしいですね」。米サウスカロライナ州ランダー大学の爬虫両生類学者、ケリー・ハンスクネヒト氏は言う。氏はこの研究には関わっていない。
凶暴な捕食者
カミツキガメ、サギなどの水鳥、水生のヘビ(aquatic snake)など、舌を疑似餌のように使って獲物を誘う動物は、ほかにもいる。ハンスクネヒト氏も、水生でマングローブシオミズベヘビ(Nerodia clarkii compressicauda)が同様の行動を取るのを発見したことがある。
毒ヘビであるパフアダーが待ち伏せ攻撃をする捕食者だということは以前から知られていた。狩りの最中、パフアダーはじっと動かずに待ち、カエル、ヒキガエル、小型の哺乳類、鳥などの獲物が近づいてきたところに襲いかかる。(パフアダーの学名にある「arietans」は「激しく襲う」という意味。)
ナショナル ジオグラフィック協会 研究・探検委員会の資金援助を受けて今回の研究を行ったグラウダス氏によると、こうした基本的な戦略以外には、パフアダーの狩りについてはこれまであまり知られていなかったという。(参考記事:「猛毒ヘビ「デスアダー」の新種を発見、豪州」)
そこでグラウダス氏とアレグザンダー氏は、動物保護区「ディノケン・ゲーム・リザーブ」で86匹のパフアダーを捕らえて体内に小型の無線機を埋め込み、その行動を追跡した。併せて、ヘビが好んで待ち伏せする場所の近くにビデオカメラを設置した。パフアダーは10日に1度ほどの頻度で食事をし、夜に狩りをして昼間は眠る。
舌も尾も恐ろしい武器
先ごろ学術誌「Behavioral Ecology and Sociobiology」にグラウダス氏が発表した論文には、撮影は合計で193日間に及び、舌を疑似餌に使う事例を数多く発見することができたとある。
【動画】毒ヘビがニシキヘビを丸のみ。イースタンブラウンスネークが小型のヘビを食べることは以前から知られていたが、このカーペットニシキヘビほど大きな相手を飲み込む様子が観察されるのは珍しい。
興味深いことに、ヘビが舌を使うのは両生類を見たときで、哺乳類や鳥が相手だと使わない。これは、舌の動きに誘われるのは両生類だけであることを、パフアダーが経験から知っているからだと、グラウダス氏は考えている。
グラウダス氏とアレグザンダー氏はまた、パフアダーが尾を使って虫の動きを真似ていることも発見した。これは鳥を狙うための戦略だ。(参考記事:「【動画】「ニセのクモ」で鳥をだまして食べるヘビ」)
尾を疑似餌に使う行動は、ヘビにはごく一般的に見られるものだが、尾と舌の両方を使うことが確認された種はパフアダー以外にはいない。
グラウダス氏は言う。「一般にヘビは単純な動物だと考えられていますが、今回の研究はそれが真実ではないことを示しています」