【解説】ヒトの細胞もつブタ胎児の作製に成功

臓器ドナー不足の解消めざし研究、一方で世論の抵抗も

2017.01.31
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元々存在しない器官が出現したマウスも

 このとき、彼らが参考にしていたのは、マウスとラットを使ったキメラの先行研究だった。

 東京大学の中内啓光教授らは、ラットの膵臓の組織をマウスの体内に移植し、成長させる方法を過去すでに発見していた。さらに1月25日付けの科学誌「ネイチャー」での発表によれば、今度は逆にマウスの膵臓をラットの体内で成長させ、作製した健康な膵臓の一部を糖尿病のマウスに移植することで、糖尿病の治療効果を確認したという。

 今回、ソーク研究所のチームは、この発想をさらに1歩進めた。「CRISPR」というゲノム編集ツールを使い、マウスの「胚盤胞(胚形成の初期段階)」から、特定の臓器を作るのに必要な遺伝子を取り除いた。続いて、それらの臓器を作れるラットの幹細胞を導入すると、細胞は順調に機能した。(参考記事:「生命を自在に変える「CRISPR」とは」

 こうして生まれたマウスは成体になるまで生きることができ、胚盤胞で異種のキメラをつくるときにCRISPRが有効であることが示された。マウスの中には胆汁をたくわえる胆のうを備える者までいた。過去1800万年の間、マウスにはなかった器官だ。(参考記事:「天才を作り出す?「賢い遺伝子」の研究は是か非か」

ヒト幹細胞の「タイミング」が重要

 次いで研究チームは、ラットから取り出した幹細胞をブタの胚盤胞に注入した。が、この試みは失敗した。当然のことながら、ラットとブタでは妊娠期間も進化上の祖先も大きく異なるためだ。

 だが、ブタとヒトの間ならかなり共通点がある。妊娠期間はブタの方が短いが、臓器はヒトによく似ているのだ。

 とはいえ、それで研究が容易になるわけではない。チームは、ブタを殺さずにヒトの細胞を導入するには、ヒトの細胞において「正確なタイミング」が必要であることを突き止めた。

 ソーク研究所の科学者で、今回の論文の筆頭著者であるジュン・ウー氏は、「我々は異なる3種のヒト細胞を試しました。発達段階の違う3種類ということです」と説明する。試行錯誤の結果、より初期の状態に近い「ナイーブ型」の多能性幹細胞は生存できず、もう少しだけ発達が進んだ幹細胞も同様だった。

 ところが、より「正確なタイミング」の人工多能性幹(iPS)細胞を注入されたブタの胚は生き続けた。それを成体のブタの体内に移し、3~4週間後に取り出して分析した。

 チームが作製し、生き続けた後期段階のキメラのブタ胎児は計186個に上ったとウー氏。「1つの胚が持つヒト細胞は、およそ10万個に1個の割合と推定しています」

ブタの胚盤胞にヒト細胞が注入される様子。(PHOTOGRAPH COURTESY JUAN CARLOS IZPISUA BELMONTE)
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 これは割合としては低く、この手法に長期的な観点で問題があることを示しているのかもしれないと話すのは、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校とノースカロライナ州立大学で幹細胞を専門に研究するケ・チェン氏だ。

 チェン氏は、「ヒトの組織が胚の成長を遅らせたようにも思われます」と指摘。さらに、今回作製されたような胚から育った臓器は、ブタの組織をかなり多く含むと思われ、ヒトに移植されると拒否反応が出る可能性があるとコメントした。

「次の大きな1歩は、ブタ胚中のヒト細胞の数を増やせるかどうかを突き止めることです」とチェン氏は言う。今回の成果はスタート地点だが、このハードルを越えられるかどうかはまだ明らかではない。

 ベルモンテ氏もこの点を認め、実際に機能するヒトの臓器をこのプロセスを用いて作り出すには何年もかかるだろうと考えている。この技術は、ヒト胚の発生や疾患の解明といった研究に使える一手段として、もっと早く実用化されるかもしれない。また、そこから得られる洞察も、臓器を作る能力と同じくらい価値があるだろう。

 研究は始まったばかりだが、チェン氏は今回の成果をブレークスルーだと評価する。「まだ課題はあります」と認めつつ、「しかし、面白い。とても興味を引かれます」と語った。

文=Erin Blakemore/訳=高野夏美

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