バイキング、知られざるその壮大な歴史

北米へ欧州から最初に渡り、ロシアの基礎も築いた中世の「襲撃者」

2017.01.25
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――あなたはサガのことを「中世アイスランドの比類ない口述文学であり世界的な遺産」であると書かれています。サガは事実でしょうか、それとも虚構でしょうか。

 サガは13世紀のアイスランドで書かれ、その後も写本にされたり、書き写されたりしていました。アイスランドではある意味、中世は20世紀になるまで終わらなかったと言えます。「サガ」という言葉は、ノース人の言語で「言う」を意味する「sayer」に由来します。ここからも、サガの起源について推しはかることができます。サガは、13世紀の筆記者が適当に頭の中で思い浮かべて書いたものではありません。サガには何世紀も前から口伝えで受け継がれてきた長い歴史があります。サガは幾度も繰り返し語られ、世代から世代へと伝わってきた物語です。しかしだからといって、これが紛れもなく事実だということにはなりません。物語は途中で変わり、改変され、装飾され、事実が抜け落ち、情報のかけらが付け足されていくものです。ですから、文字で記録される時点ですでに、事実と虚構を区別するのは非常に難しいのです。

アイスランド、レイキャビクにあるハットルグリムス教会の前に立つレイフ・エリクソンの像。バイキングはコロンブスより500年早くアメリカ大陸に到達したと言われる。(PHOTOGRAPH BY JON BOWER ICELAND, ALAMY STOCK PHOTO)
アイスランド、レイキャビクにあるハットルグリムス教会の前に立つレイフ・エリクソンの像。バイキングはコロンブスより500年早くアメリカ大陸に到達したと言われる。(PHOTOGRAPH BY JON BOWER ICELAND, ALAMY STOCK PHOTO)
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――トロルや小人は映画『ロード・オブ・ザ・リング』で一般の人に馴染み深い存在となり、ドラゴンはTVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のストーリーで重要な役割を担っています。サガにはそういった想像上のクリーチャーがたくさん登場しますね。

 それは確かですが、同時にサガには、非常に現実的な面もあります。すべてのサガにドラゴンやエルフが山ほど登場するわけではありません。また面白いのは、そういった生きものは明らかにノース人の世界観の一部分として認識されていたということです。サガに登場するとき、彼らは必ずしも空想的なものとして描かれるわけではありません。たとえばごく普通のサガのエピソードの中で、誰かが夢を見たり、あるいは山を歩いていたりすると、そういったクリーチャーが突如として現れることがあります。トロルが自分の視界の端をうろうろと歩きまわっているという概念は、彼らにとってごく当たり前のものなのです。

 極北に住む人々は昔から、超自然的で、時に悪魔的なものを連想する傾向にあり、その起源は古くは聖書の時代に遡ります。そうしたものはアングロ・サクソン人の世界観にも脈々と受け継がれており、19世紀のハンス・クリスチャン・アンデルセンが書いた『雪の女王』などに見ることができます。北へ行くほど風景は荒涼とし、山や深い岩の裂け目、奇妙な岩の造形が見られるようになります。ですから、そういった人を寄せ付けない場所に住めるのは、それ自身が人ではない、たとえばトロルのような存在だろうと想像しやすくなるわけです。(参考記事:「バイキングの軍事都市、ドイツで発見?」

――著書を拝読して驚いたのは、バイキングが船と陸路で東へも向かい、現在のロシアにも行っていたということです。これについて教えていただけますか。またソ連時代はなぜバイキングとの関わりを重視しなかったのでしょうか。

 ロシアへ行こうと最初に行動を起こしたのは東部の人、具体的にはスウェーデンの人々でした。彼らはバルト海を渡り、ロシアの水路を進みました。ノース人がどこへ行ったのかを知りたければ、「お金」の後を追えばいいのです(笑)。中世には、イスラム産の銀器が大量にロシアの川を行き来していましたから、ノース人はその後を追って行ったわけです。ノース人は毛皮や獣皮など、自分たちの商いの品も持参しており、これは非常に高値で売れました。また彼らは奴隷を連れて行きましたが、(奴隷の調達というのも)あれほどの襲撃や暴力が行われた理由の1つでした。(参考記事:「埋葬用の剣、中世東欧の墓地発見」

「ロシア(Russia)」という言葉はおそらく「Rus」という語から来ており、少なくともその起源は、スウェーデンあるいは北欧のどこかに由来すると思われます。こうしたノース人部族がキエフの町を開いて後にキエフ大公国と呼ばれる国を作り、これが現代のロシア、ベラルーシ、ウクライナの基礎となります。しかしソビエト時代には、この国の礎は外からやって来た人々が創ったのだとおおっぴらに言って回るのはよしとされませんでした。国を創ったのはノース人ではなく、自分たちと同じ東スラブ人だと考えるのを彼らは好んだからです。しかしスタラヤ・ラドガなど、ロシア北部にある商業の町で最も古い考古学的地層を見れば、明らかにノース人に由来するものが見つかります。

バイキングはロシアから北米まで広く旅をしたが、おそらくはこのバイキング船のレプリカがあるアラスカ州ピーターズバーグまでは到達しなかったと思われる。この船は、ノルウェー人が拓いたこの街に残る文化を記念するためのもの。(PHOTOGRAPH BY MACDUFF EVERTON, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
バイキングはロシアから北米まで広く旅をしたが、おそらくはこのバイキング船のレプリカがあるアラスカ州ピーターズバーグまでは到達しなかったと思われる。この船は、ノルウェー人が拓いたこの街に残る文化を記念するためのもの。(PHOTOGRAPH BY MACDUFF EVERTON, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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――あなたは研究者ですが、この本を書かれるために大学を離れました。その取材のハイライトはどういうものでしたか。また、本を執筆することでバイキングに対する見方は変わりましたか。

 大学を辞めた後、私はグリーンランドで夏を2度過ごしました。この本を書きたかった理由の一つが、グリーンランドへ行くことだったのです。現地では、サガに描写されている世界の考古学的な証拠を見て回りました。たとえばサガに登場する農場や、赤毛のエイリークが暮らしたフィヨルドなどです。エイリークの農場のすぐそばにも滞在したんですよ! この旅は私に、ノース人がいかにすばらしい人々だったか、彼らはどれだけ遠くへ行ったのか、それがどれほど危険なことだったのか、世界の果てを目指した彼らがどれだけ勇敢で大胆だったのかを教えてくれました。

文=Simon Worrall/訳=北村京子

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