世界初、生きたルビーシードラゴンの海中映像

海の中で生きる姿を初めて確認、タツノオトシゴの近縁種、オーストラリア

2017.01.18
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ルビーシードラゴンは2015年に見つかったシードラゴンの新種だが、実際の海に生息している確証はなかった。そこで、研究者らがビデオカメラとライトを付けた小型潜水機を沈めたところ、世界で初めて海の中で生きている個体の撮影に成功した。(海中映像は1:02前後から。説明は英語です)

 珠玉の発見とはこのことか。このほど、米国スクリップス海洋研究所の研究者らによるチームが、鮮やかな赤色をしたルビーシードラゴン(Phyllopteryx dewysea)が泳ぐ姿の撮影に初めて成功し、1月12日付けの科学誌「Marine Biodiversity Records」誌に論文とともに発表された。

 撮影場所は西オーストラリア州エスペランス沖のルシェルシュ群島。体長25センチほどの成魚の生きている姿が観察されたのも今回が初めてになる。ルビーシードラゴンは2015年2月に新種として発表されており、150年ぶりに発見された3種類目のシードラゴンだった。(参考記事:「西オーストラリア州の島の“世界一幸せな動物”」

 しかし、新種登録の根拠となったのは、博物館にある標本のDNA鑑定や解剖分析で、自然の海に生息していた個体が使われたわけではなかった。

「海の中にはまだ、多様な生物が隠されています」と米カリフォルニア州サンディエゴにあるスクリップス海洋研究所の生物学者グレッグ・ラウズ氏は言う。ルビーシードラゴンを発見したのは同氏と大学院生のジョゼフィン・スティラー氏、そして、西オーストラリア博物館のネリダ・ウィルソン研究員だ。

「ルビーシードラゴンのような、カリスマ性を持つ大きな魚類がまだ新たに見つかるのがいい例です」とラウズ氏。

会心の1ダイブ

 生きているルビーシードラゴンを見つけるのは困難だった。大きな理由は、ルビーシードラゴンの行動は、近縁種にあたるウィーディーシードラゴンとリーフィーシードラゴンとまるで違うからだ。

 例えば、ウィーディーシードラゴンとリーフィーシードラゴンの生息地はオーストラリアの南沿岸全域で、水深30メートル未満の海草とサンゴ礁の周辺を泳いでいる(ナショナル ジオグラフィック協会はラウズ氏のリーフィーシードラゴン研究を支援している)。(参考記事:「動物大図鑑:リーフィーシードラゴンとウィーディーシードラゴン」

 一方、新種決定に使われた唯一の標本である「正基準標本」は、2007年に行われた生物多様性調査の折に水深約50メートルのところからたまたま採取されたものだ。このことから、ルビーシードラゴンはより深い場所に生息していると推測された。

 2016年4月、ラウズ氏たちのチームは生きているルビーシードラゴンを探し出そうと、正基準標本が得られたルシェルシュ群島にまではるばる赴いた。しかも、2015年と2016年に同地付近の岸で新たに2個体が打ち上げられていたため、その水域を探すことにしたのだ。

 だが波は荒く、一行がルビーシードラゴンの調査に使える時間は1日限りになってしまった。

 それでも、遠隔操作型の小型潜水機を4回潜らせた後、水深50メートルにいる2匹のルビーシードラゴンの撮影にチームはなんとか成功した。2匹は海綿動物がいる岩の多い海底を泳いでおり、アミと思われる小さな甲殻類をかじっていた。

 1日で2匹のシードラゴンを、それも1回のダイブで見つけたのは、信じがたいほどラッキーだった。前代未聞といえるだろう。

 米フロリダ州にあるタンパ大学の生物学者ヘザー・メイソンジョーンズ氏によると、タツノオトシゴやシードラゴンを含むヨウジウオ科は通常、海にまばらにしか生息していない。少なくとも1千平方メートルの広さの海をしらみつぶしに探して、やっと1匹見つけられる程度の珍しさだという。なお、メイソンジョーンズ氏は今回の研究に参加していない。

「生息場所を特定できれば、一度に数匹を見つけ出せるかもしれませんが、そうでもない限り、何日もかかります。ある特定の種を探し出そうとしたら、何日探し回っても、1匹も見つからないということもありえます」と、メイソンジョーンズ氏はメールでコメントした。「博士課程の間を通じて、海で見つけた野生の個体数は50匹以下だったというヨウジウオ科の専門家を私はたくさん知っています」(参考記事:「ヨウジウオ、魅力のないメスの子を流産」

深まる進化の謎

 この新たな映像は、うっとりとさせられるルビーシードラゴンの姿だけでなく、その体の構造と行動について、重要な特徴を映し出している。

 例えば、映像を見ればわかるように、ルビーシードラゴンの擬態はその近縁種と異なっている。ウィーディーシードラゴンとリーフィーシードラゴンは葉に似た付属器官に覆われており、海草の間におけるカムフラージュとなっている。しかしルビーシードラゴンは、そのような付属器官を持たない。その代わりに、深い赤色の体になった。深い海で捕食者をあざむく効果的な方法だ。(参考記事:「魚が海中で姿を隠す仕組みを解明」

 最も驚くべきは、ルビーシードラゴンが先の丸まった尾で物をつかんでいる点だ。ヨウジウオ科の魚類の多くが、尾で物をつかめるとはいえ、ウィーディーシードラゴンとリーフィーシードラゴンはつかむことができず、シードラゴンの進化史を考えるうえで、トピックの1つになっている。(参考記事:「一気に2000匹!タツノオトシゴのオスの出産シーン」

「他のシードラゴンが物をつかめる尾を失ったのか、それともルビーシードラゴンだけが、その技を進化させたのか、ちょっとわかりません」とラウズ氏は言う。

守りの盾

 研究者はオーストラリア政府がシードラゴンの保護のために動いてくれることを望んでいる。この種に関する情報がごく限られているだけにその気持ちは強い。「現在、どのくらいの個体数がいるか、それがどのように分布しているのか、見当もついていないんです」とラウズ氏は言う。

 保護指定には前例がある。ルシェルシュ群島の公園と自然保護区を管理している西オーストラリア州はすでにウィーディーシードラゴンとリーフィーシードラゴンの採集を禁止している。

 両種は、世界的に認められた国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでも、生息地の環境悪化と混獲により絶滅の危機に瀕しているとして、近危急種(near threatened)と指定されている。(参考記事:「乾燥タツノオトシゴ800万匹を押収、ペルーの港で」

文=Michael Greshko/訳=潮裕子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加