「旅する蝶」が激減、入り組んだ人為的影響

北米を数千キロにわたって大移動するオオカバマダラ、西部個体群は86%減少

2018.12.31
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 トウワタの消失で、愛する美しいチョウがリョコウバトやマンモスと同じ絶滅への道をたどるかもしれない。人々のそんな不安が見当違いでなかったことが、この数年に出た数々の論文から明らかになりつつある。(参考記事:「チョウの羽、食事制限で小さく色あせる」

 気候変動を引き起こしているのは、化石燃料の燃焼による大気中のCO2(二酸化炭素)濃度の上昇だ。米スタンフォード大学の生態学者レスリー・デッカー氏は、CO2濃度の上昇によって、トウワタによる化合物生成に異変が起きている可能性を指摘する。トウワタは、毒性をもつ化合物カルデノリドを生成するが、オオカバマダラはこの毒にある程度まで耐えられるように進化してきた。そしてカルデノリドを体内に蓄えることで、捕食者を遠ざけている。

 オオカバマダラにとって、カルデノリドは自身の体に寄生するOphryocystis elektroscirrhaという寄生虫の成長を妨げてくれる利点もある。この単細胞の寄生虫は、新しくふ化したオオカバマダラの幼虫の消化管に穴を開けて寄生し、自身を複製することができる。幼虫が死なずに成長しても、成虫になったチョウは翼の形がゆがみ、持久力が低下する。カルデノリドがあればオオカバマダラは寄生虫にも耐え、害を受けることはない。

 しかし、デッカー氏がCO2濃度760ppm(現在の濃度である410ppmから上昇し続ければ、150~200年後にはこのレベルに達すると気候科学者たちは予測している)の温室でトウワタを育てると、トウワタが生成するカルデノリドの配合が変わり、寄生虫に対する効果が小さくなることがわかった。この研究結果は2018年7月、学術誌「エコロジー・レターズ」に発表された。

米国東部に生息するオオカバマダラの個体群は、4800キロの距離を移動し、数百万匹にもおよぶ集団がメキシコ中部のモミの森で冬を過ごす。(PHOTOGRAPH BY MEDFORD TAYLOR, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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「天然の薬局とも言えるこの仕組みに自分たちがどんな影響を及ぼしているのか、人間はわかっていないのです」とデッカー氏は話している。

「適度な毒」で保たれるバランス

 トウワタの危機が伝わり始めると、一般市民が自宅の裏庭にトウワタを植え始め、大型小売店やチェーンの種苗店は盛んにトウワタを販売した。だが、店に並んだのは丈夫で育てやすい、本来はメキシコに分布していたAsclepias curassavicaという種のトウワタが多かった。北米の近縁種同様、A. curassavicaも毒成分カルデノリドを生成するが、米国原産のトウワタ種よりその濃度がはるかに高い。米ルイジアナ州立大学の博士課程学生で生態学が専門のマット・ファルディン氏は、この濃度はオオカバマダラが対応できる限界ぎりぎりだと指摘する。

 ファルディン氏は学術誌「エコロジー」に掲載された研究で、A. curassavicaのカルデノリド濃度が気温の上昇でさらに高くなっていることを発見。オオカバマダラにとって毒性が強すぎることを明らかにした。

「これらの毒には、強すぎも弱すぎもしない範囲があります。気候変動によって、トウワタはこの分岐点を越えていくかもしれません」

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