医薬品研究の次なるフロンティアは、海の中にあるかもしれない。
米国のドナルド・トランプ大統領は、オピオイド系鎮痛剤への依存症が国内で蔓延している問題で、国家公衆衛生の非常事態を宣言した。2017年11月には、大統領顧問のケリーアン・コンウェイ氏を対策部長に任命し、自らの給料の一部を拠出して対策費に充てると発表した。また、国防総省から1000万ドル近い助成金を得て、ユタ大学健康学部の研究チームが新薬の開発に加わった。
チームが目を付けたのは、毒を持つ海洋生物のイモガイだ。
「目標は、オピオイドを使わない鎮痛薬の可能性を探ることです」と、研究に携わる生物学者のトト・オリベラ氏は述べている。 「選択肢は、あればあるほどいいと思っています」
海の生物がもつ毒に期待
捕食性の貝の仲間であるイモガイには数百もの種が存在し、毒性は種によって異なる。この研究では、6種のイモガイを含むConus asprellaという亜属に焦点を当てている。イモガイは獲物を狙う際、銛のような形をした歯を使って、体を麻痺させる毒を魚に注入する。そして、しばらくの間相手が毒にどのように反応するかを見守ってから、再び毒を撃ち込んで獲物を丸のみにする。(参考記事:「インスリンを毒に使う貝を発見」)
この毒から、人間に対して中毒性のない麻酔成分を取り出して利用できれば、オピオイド対策は一歩前進すると期待されている。
研究チームは、毒の成分を知るため、イモガイの生態や行動についても研究している。「小さいイモガイなら、触れたときに痛みやしびれを感じることはあるかもしれませんが、ほとんどの場合緊急事態に発展することはありません」。海の中で人間がConus asprellaに刺されても、大した影響はない。しかし、毒素をうまく調整できるようになれば、新薬の開発につながる可能性がある。
さらなるデータを集めたら、チームは有望と思われる毒成分を全て特定し、それらを合成して処方薬を作る方法を研究する。2017年2月には、オリベラ氏の関係していた別の研究で、カンムリイモ(Conus regius)の毒が有効な鎮痛薬となる可能性が示された。
おとなしそうに見えるイモガイだが、危険な毒をもっている(解説は英語です)